サクッ

 軽い音を立て、それは形を崩した。切り取ったそれを口に運ぶことはなく、フォークは何度もサクサクと切り刻む。欠片が服の上に飛んだところで、それはやっと動きを止めた。

「嘘っていってよ」

 男の顔が歪んだ。ごめん。小さな謝罪と共に向けられる旋毛。流れる髪。なんでこんなにかっこいいんだろう。ううん、容姿に惹かれたんじゃない。もっと、深いところを好きになった。愛しくて、大事で、どんなに冷たくされても想い続けた。嘘の愛を受けていると知っても、見てみぬふりで縋った。求められれば受け入れた。好き。好きなの。どうしようもなく、どこまでも。

「わたしは、まだ好きなんだよ」

 今も、どんな形であれ彼が目の前にいることにドキドキしてる。目が合えば胸が締め付けられる。まだ好き。私はまだ好きなのに。フォークを再び突き立てれば、甘いタルトは原型を失った。苺を突き刺す。赤い汁が流れ出して、血のように見えた。ああ、痛い。苦しい。

「ごめん、な」

 染めていても艶を失っていない髪が揺れ、視線が合った。いつも軽い彼の瞳は暗くて重い。そっか、これ、冗談じゃないんだ。本当に本当なんだ。

「正臣の、ばか」

涙をこらえてそれだけ呟いた。



甘いお菓子も君が居なければしょっぱいもの



♪弱虫モンブラン/Deco*27P
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