流石奥州、春先でも真冬のような寒さだ。悴む手に息を吹きかけ擦り合わせたが、体の芯から冷え切っているため、ほとんど効果は無かった。

「Hey,調子はどうだ、悠」
「くそさみい」
「Girlがそんな言葉使うんじゃねぇよ」

 ド派手な格好(いつものことだけど)で現れた伊達政宗は、ため息をついてから私の手を掴んだ。ゆらゆら昇っていく水蒸気を眺めていた私は、いきなりのことに少し動揺した。あっちから触れられることは無いに等しかったからだ。

「珍しいね」
「嫌だったか?」
「いや、ちょっと吃驚しただけ」
「……そうか」

 政宗の手は、意外に温かかった。冷え切っている指先を潜り込ませると、握る力が少し強くなる。硬い肉刺が無数にある大きな手は、これまでの道のりを物語っていた。
 何をするわけでもなく、手を繋いだままその場に立つ。寒空に薄くかかる雲は淡い色をしていた。
 旅に出たら、もうこの手に触れることは無くなるかもしれない。自信に満ちた隻眼を二度と拝めないかもしれない。……そこまで考えて、思考を止めた。いくら考えても悲しくなるだけだ。今感じている温もりを刻みつけよう。

「お前と再び相見える時は、俺が天下をとった時だ。死ぬんじゃねぇぞ」
「政宗もね」
「Of course!」

 ハッと笑って私に向き合った彼は、いつもと同じあの笑みを浮かべていた。突然、ゆっくりと跪き私の手に顔を寄せる。吐息が手の甲にかかり、心臓がとくんと高鳴った。熱が顔に集まる前に止めさせようと口を開いたが、上げられた顔が真剣過ぎて何も言えなくなった。

「Would you marry me?」

 風が政宗の髪を揺らす。心臓が煩い。南蛮語はわからないけど、軽い言葉じゃないはずだ。じゃなきゃこんなに緊張しないし、政宗もこんな顔するわけない。

「意味は、次会ったときに教えてやる。You see?」
「う、は、はい……じゃなくて、いえす!」
「いい返事だ」

 離れた手は頭をぽんぽんと叩き、そのままくしゃりと乱暴に撫でた。彼の後ろに広がる空はどこまでも青くて、美しい。

 そうだ、あの青が終わる場所まで行ってみよう。辿りつく頃には平和な世になってるだろうから、帰りは迎えに来てくれる。……来てくれなかったら、呼ぶ。



極東のちいさな島にて



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