世界が回っている。胃の中、いや、内臓全部吐き出したい。熱い。いや、寒いかも。わからない。わからないのは嫌だ。知りたい。どうすれば良いのか、それと、遠くに聞こえる声が本当に私を呼んでいるのかどうかを。
大きい何かが手を包んだのを最後に、私は意識を失った。



眩しい。
目は開いていないのにそう思って、眼球をぐるぐる動かしてみる。
瞼の向こうの光が血流を透かして、それでもまだ眩しい。
無理矢理目を開けると、溢れんばかりの光が飛び込んできた。

「ああ、起きましたか」

声の方へ目を動かす。
山南先生が柔和に微笑んでいた。

「あ…えっと」
「寝ていて下さい。今藤堂君を呼んできますから」

藤堂? どうして藤堂が出てくるんだ?
首を動かすと、ベッドは軋んだ音を立てた。

「高橋、……」
「お、藤堂」

ベッドの傍らに誰かが立つ。固まった首をそちらに向けると、俯いているプリンスがいた。
更に話しかけようとして、その拳が震えているのに気づく。

「助からなかったらどうするつもりだったんだよ! 叫んだりしろよ!」

興奮状態の人間を落ち着かせる方法……なんだっけ、冷静に対応する、で合ってるよね? どうしよう。嫌われるのは避けたい。

「だって、大声で助けを呼ぶより静かに助けを待ってた方が助かる可能性は高かったよ。あそこは授業じゃなきゃ誰も来ないし」
「俺が!」

藤堂は激昂をそのまま声にしようとしたが、我に返ったのか、俯いて、一拍置いてから続きを言った。

「……俺がお前を探してる可能性の方が、高いだろ」




ブルーブルー




伏せた瞼と、それを彩る長い睫毛を眺めて、やっと気づいた。
むず痒く嬉しい、そして心臓が苦しい程に収縮する切なさ。
嫌われるのを避けたい理由、雪村千鶴が羨ましかった原因。

「……ごめん」

何に対しての謝罪なのか、自分でもわからなかった。
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