「というわけで沖田の元へ行ったんだけども」
「だけど?」
「会ってすらくれなかった」

お弁当のから揚げをがぶりと頬張り、購買のパンをもきゅもきゅ食す藤堂を見た。顎にパンくずがついている。

「君が陰キャラでブサイクだったら色々やれたんだけど、充分イケメンだもんなぁ。なんで取られちゃったんだよ」
「そんなの知らねーよ」
「……はああ」

今のままでも充分輝いている平助王子の直すべきところ……ヘタレ?
いや、ここはヘタレを売りに出していこう。そうしよう。
昼休み終了まであと五分。

「よし、藤堂。君に任務を与えよう」
「んー?」

イチゴ牛乳の紙パックにストローを差し込むプリンスは、私の話を全く聞いていないようだ。顎のパンくずはいつのまにか取れていた。

「雪村千鶴の前で、紙の束を撒き散らかせ。んで、たぶん拾ってくれるだろうからお礼を言うときに爽やかスマイルでありがとう、だ。OK?」
「んあ? わり、聞いてなかった」
「ちきしょう!」

パックを持つ手は意外に大きい。いや、ごつごつしていると言うべきか。
この手で自分のそれを握られて、登校か。羨ましい。……うらやましい?

「で、なんだよ」
「だから、お礼を言うときに爽やかスマイルしろってこと。女子は笑顔にときめく生き物だからねー」
「お前もそうなのか?」
「は?」
「高橋は笑顔に弱いのかよ?」
「あー、いやまあ、そうだね、うん」
「ふーん」

藤堂の顔がやけに真剣でびっくりした。
王子の行動は、時々よく分からない。もっと調べる必要がある。

(そろそろ恨み買ってるかもしれないな)

プリンスと二人きりで昼食は、かなり贅沢なことである。




惰性ロマンス




「高橋さん、ちょっと」
「……ああ、はい。じゃあ藤堂くん頑張ってくれ」
「? おう」


授業開始二分前、女子生徒数人に呼び出される。
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