「藤堂くんよう」
「ん?」
「今更だけど…君、雪村千鶴が好ぐぇぶ」
「ちょ、お前声大きい!」

藤堂平助はシャイボーイのようだ。男子特有の硬い手のひらが口を押さえた。舌を少し噛んだ。痛い。
なるほど好きなのねーとにやにやしながら見つめれば、プリンスは不機嫌な顔で明後日の方向を見た。

土方先生に頼まれた仕事(資料をホチキスでまとめるというもの)を淡々とこなしていく私と、事あるごとに紙を撒き散らかす藤堂。
女子からすればそんなところも魅力なのだろう。私としては大迷惑だが。

「藤堂くんよう」
「…なに」

心なしかさっきより声が暗い。機嫌を損ねてしまったようだ。

「雪村千鶴、略奪したいんだろ?」
「は!?」
「覚悟してたもんな、さっき」

綺麗に並べられていた資料がくしゃくしゃになった。どうやら雪村千鶴のことを出されると動揺するらしい。これは使える。
焦って紙の束を雑にまとめ、「さっきってなんだよ」と知らないふりをする藤堂の頬は真っ赤である。可愛らしいものだ。

「協力しようか?」

翡翠の瞳が見開かれた。手の資料がバサバサと床に落ちる。

「情報通の高橋 悠が協力してやるって言ってんの」
「なん、なんで」
「知りたいことを一気に調べられるからかな。いいじゃん、お互い利害一致で」

学園のプリンスと学園のプリンセスの恋。しかも略奪愛だ。奪い取る相手は学年のキング、沖田掃除。じゃない総司。

「燃えるわ……!」
「? 協力してくれるのはありがたいんだけどさ、やっぱこういうのは自分の力で……」
「あーダメダメ。そんな考えじゃ千鶴姫は手に入らないよ。まあ何と言われようと協力するけど」

最後の資料をまとめ終え、困惑する藤堂に良いよね? と確認した。




遮二無二ガール




「で、だ。藤堂と雪村千鶴は幼馴染で立場的にも有利だったにもかかわらず沖田に掠め取られた。この理由を解明しようじゃないか」
「…最近一緒に登校しなくなった矢先のこれだったんだよ」
「ふむ。つまり君がヘタレだったということね」
「……。」

場所は変わって空き教室。窓から夕日が差し込んでいるが、姫略奪コンビ(仮)は話し合いの真っ最中だ。
最初は恋バナに慣れていない藤堂の慌てっぷりが面白かったが、徐々に疲労の滲む表情を見せるだけとなった。

「そろそろ帰らないとまずくないか?」

藤堂の疲労もピークだし、これ以上の収穫は無さそうだ。

「そうだね。今日のところはここまでにしよう。解散!」
「ちょ、ストップ。送ってく」
「へ、いやいや大丈夫。流石にこの年で蝶を追いかけ迷子とかは無いから」
「そうじゃなくて、お前一応女子だろ?」

……なるほど、これがプリンス。
仮にも性別:女の私は藤堂王子の言葉に衝撃を受けた。俗に言えば、ときめいた。

「じゃあ、お願いします」

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