走る。心臓が空気を求め暴れまわったが、そんなことを気にする暇はない。
自分が持てるすべての力を両足に集約し、長い廊下を駆け抜けた。目的地は近い。
途中、土方先生とすれ違う。走るな馬鹿と叫ばれたが、一々反応してる時間もない。
一つの教室の前でブレーキをかけた。少し行き過ぎて、足早に戸の前へ戻る。大きく息を吸い込み、ガラリと戸を開けた。

「雪村千鶴に彼氏が出来たぞー!!!」




ソニックブーム!




反応は様々だった。
重く項垂れる者もいれば、嬉々として噂話を始める者もいる。ただ呆然と立ち尽くす男子、何事も無かったかのように話をする女子。
予鈴が鳴った。私はそのまま教室に入り、一番後ろの席へ向かう。好奇の視線を感じつつ、席についた。
机の中からノートと教科書を出した後、下敷きで額を煽る。この時期に全力疾走はなかなかきつい。

「日直、号令」

妙に間延びした声の起立、礼、着席に従い、周りを見渡してから資料集を忘れたことに気づいた。
まいったな。今日確実に使うぞ。
隣人が誰か確認し、それが中々好意的な人物なことを認識してから声をかける。

「藤堂、資料集見せてくれませんか」

鳶色の髪の少年は呆れた顔をしてから机を寄せた。
小さくお礼を言って机をぴったり合わせる。

「なあ、」

個人個人が好き勝手やり始める授業開始15分後。学園一モテる藤堂平助が小声で話しかけてきた。

「なに?」
「さっきの、……」
「雪村千鶴に彼氏が出来た?」
「ばっ、お前声でけーよ」

藤堂少年は顔を真っ赤にして言った。なるほど、こいつも雪村千鶴が好きと見た。

私は根っからの知りたがりだ。周りが気にしていることを察知し、それについてしつこく嗅ぎ回る。おかげで新聞部に勧誘されたが、きっぱり断った。
こういうのは一人でやってこそ達成感があるのだ。

今世間が注目しているのは、学園のプリンセス雪村千鶴の恋愛事情。
彼女は愛らしい容姿を持ちながらも惚れた腫れたの噂が全く無く、最早全校生徒が彼女を気にしながら生活を送るのが日常と成りつつあった。
そこで立ち上がったのが私、高橋 悠である。
幾多の妨害(雪村千鶴の兄、南雲薫やその他)に遭いつつも、私は負けず、へこたれず、頑張ってきた。そして迎えた今日。

「雪村千鶴が告白されてOKするところ見たんだよ」

頬を染めたままの藤堂平助にこそっと教えた。資料集の借りもあるから情報料は無料でよしとしよう。
学園のプリンスはあからさまに暗い顔をした。しかし次の瞬間男の、いや、漢の決意に満ち満ちた顔で宣言した。

「俺、頑張る。絶対…」

よく言った藤堂。しかし今は授業中である。クラスメイトの視線が痛い。
焦る私に、土方先生の絶望的な言葉が届いた。

「藤堂、高橋、お前ら放課後職員室来い」

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