正直、どうすればいいのかわからなかった。最初と同じように、よく言った藤堂! とでも思えば良かったのだろうか。このままいけば確実に失恋するだろう男を目の前にして、私は何を言うのが最良だったのか。悩んでいるうちにコンサートも自由行動の時間も終わり、閉会式を迎える直前だ。藤堂平助は一ミリの迷いもなく雪村千鶴の元へ行く。沖田も止めないだろう。どうすればいい?

「高橋」
「ひょおっ?!」
「うお、なんだその声」

勢いよく振り返ると、缶コーヒー片手に汗を拭く原田先生がいた。校内でも一、二を争う男前っぷりだ。髪が額に張り付いていてとってもセクシー。何回か突撃取材をしたことがあったが、軽くかわされるのがオチだった。大人の余裕ってやつか。
向こうから接触してくることなんて珍し過ぎる。どうしたんだろう。

「どうしたんですか先生。もうすぐ腹踊りの出番じゃ?」
「なんで知って……あー、愚問だな。歩く情報、高橋悠だもんな」
「はあ、どうも」

ぼやっとした返事を返すと、原田先生は不安げな表情になった。憂う顔も様になっててかっこいい。今度写真集発行許可取ろうかな。

「なんかあったのか?」
「は? なんか?」
「お前ここ最近変だぞ。今日だって、絶対盗撮しに来ると思って覚悟してたんだが……」
「……あ」

アッー! やっちまった! お化け屋敷で着物姿な原田先生を激写予定だったのに!
毎年原田先生の出るクラスには長蛇の列が出来るから、入れなかった人のために写真をとっておくのが私の役目だった。が、忘れていた。

「うわあどうしよう……死ぬ……」
「写真だったら後でいくらでも撮れ。それよか、」

さらりと爆弾発言をして辺りを見回した後、原田先生は私の腕を掴んで空き教室に入っていった。

「わー原田先生セクハラー」
「セクハラじゃねぇ、補導だ補導」

先生はそこらの椅子に腰掛け、私も座るよう促した。結構強引な人だ。あとでメモしておこう。

「正直に言ってくれ。なにがあった? 夏休み入る前だって、お前何かされてただろ」
「何かって……なんですか」
「閉じ込められたんだろ」

閉じ込められた……ああ。遠くで名前を呼ばれて、大きい手が私のそれを掴んでくれた。結局、あの子達の転校以外に何事もなく済んだから問題は無い。申し訳ないことをしたと思うけど。
助けてくれたから、無事だった。

「平助くんがいたので、別になんともなかったですよ」

一瞬迷って、原田先生の顔を見た。先生は続きを求めているようだった。
どうせなら言ってしまおう。先生が知ったからといって、別に害があるわけじゃない。

「……一人の男子が、今日失恋するんです」

軽い相槌。言葉をまとめてから、またゆっくり話し始める。

「私はそいつと協定結んでて、……そいつの恋を応援してたんですよ。してたんですけど……私、そいつのこと好きになっちゃって」

生徒はもう体育館に集まってしまったらしい。廊下はとても静かだった。

「応援、したいんですけど……失恋するのは決まってて。どうしたらいいかわかんなくて。ほんと、情けないです」

原田先生は急に笑い出した。え、真剣な話だったんですけど。笑える要素あったっけ? 私がこういう話するのがウケたとか? え、涙出そう。

「まさか高橋がこんなところで躓くとはな」

ははは、と笑い続ける原田先生はかなり幼く見えた。……何でこんなに笑われてるんだろう。凄い虚しいぞ。

「なあ、高橋」
「……なんすか」

ぶっきらぼうに返すも、原田先生はそれをスルーして話し続けた。大人の余裕……じゃないな。絶対違う。

「お前は何をしたい?」

何を。何をって、そりゃあ平助王子と千鶴姫の恋の行方を知りたい。っていうのが最初の目的だった。……今は、藤堂平助に……見て欲しいのかもしれない。いや、そうだ。平助に私を好きになってもらいたい。それに、彼の初恋だって見届けたい。

「原田先生、二つあるんですけど」
「そこまでいったら自分で何とかしろよ」

ガガガと椅子を戻して、教室を出て行く先生。慌てて後を追いかけ、叫んだ。

「今度先生の写真集出してもいいですか!」



見届けよう。漢の決意を確かめてやろうじゃないか。知りたいんだ、彼の想いを知った雪村千鶴がどんな表情をするのか。それから、その時の平助の行動。知りたい。この後原田先生に想いを伝えるのは、女生徒3人先生1人。原田先生はどうするのだろう。永倉先生のリサイタルは本当に許可されたのだろうか。それと、

平助は、私の気持ちを知ったらどうするのか。



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