文化祭が近づいている。周りの空気が盛り上がっていく中、私は仕事で大忙しだ。どのクラスが何をやって、あの役にはあの人が、風紀委員の見回り時間把握やら当日訪れるであろう高校のチェック、軽音楽部のメンバーにインタビュー、斎藤くんからお説教、ああああ忙しい! 「……悠?」 「やあ平助くんお元気そうでなにより」 「すごい隈だぞ。あ、その取材俺やっといたから」 「え、なんかすみません」 「気にすんなって。協定組んでるわけだし」 「いや、もともと私が君に協力……、」 「……そのこと、なんだけどさ」 空き教室で資料を整理していると藤堂……平助がやってきた。あの日から片思い応援大作戦の話はしていない。それどころか話もしていなかった。理由は簡単、私が避けているから。これ以上彼に傾倒したくなかったのだ。卑怯だとは思うけど、彼を傷つけるようなことはしたくないし、早く元の自分に戻りたかった。知りたいことを調べて、時々火傷して、情報に囲まれて過ごす自分に。藤堂平助という人間を認識するたび泣きそうになるのは、どう考えても異常だ。恋愛とは全部こういうものなのだろうか。 「俺、決着つけようと思う」 決意を帯びた声と眼差しはあの時と変わらなかった。西日に照らされた頬が橙に染まる。夏の残り香が騒がしく鳴いていた。 「明後日。文化祭が終わったら、告白する」 ミンミンミンミンミーン ジィ―――― サイレンが鳴る |