大きなビル。見ているだけで足が竦んだけど、今からここに入らなければいけないのだ。 ドアは自動で開いた。もっと厳重に管理されてるのかと思ったけれど、扉は次々に開いていく。あたりを見回してみると、天井に監視カメラを見つけた。……ワタリが開けてくれているのかも。 一歩踏み出すたびLに近づく。鼓動はどんどん速くなって、額には汗が滲んだ。怒られたらどうしよう?帰れと言われたら?…そんなの、しらない。 大きな扉の前で私は立ち止まる。中から人の声がした。 唇をきつく噛んで、一歩前に出る。 扉が、開いた。 「……悠?」 ティーカップがゆらゆら揺れて、手から滑り落ちた。パリンと派手な音を立て割れたそれは、私が好きだと言ったメーカーのもの。 黒い大きな目が私を見つめた。私も見つめ返す。 誰も話そうとしない。周りにいる男の人達も私を凝視しているのが分かった。 「ひさしぶり、L 」 どうにもそれ以上の言葉が見つからない。 傍にいて欲しかったこと、貴方に謝りたかったこと。Lと離れたくなかったことも、ありがとうの気持ちも、出てこない。 黙り込む私にLが歩み寄る。怒られてしまうだろうか。 …怒られたっていい。一緒にいたい。Lが疲れてしまわないよう、出来る限りのことをしたい。 Lが目の前にいる。俯いていて表情が読めない。……少し、痩せただろうか。 「える、」 言うべき言葉はなんだろう。甘くて苦くて少し酸っぱい、この大きな気持ちはなんだろう。 「悠さん」 淡い温もりが私を包む。変わらない甘い香りが、鼻腔に広がる。 涙が零れそうになって、やっと気づいた。 私はLが、 「好きです」 優しい声が、耳朶を揺らした。 貴方に言えなかったことがある ( さびしい ごめんなさい 行かないで ありがとう――好き。 ) |