ちょうど、トイレに行った帰りだった。
流石に護衛の人はついてこない。些かほっとしながら、手を洗ってさっきのお店に戻ろうと、した。

急に後ろから手が伸びてきて、目と口を塞ぐ。
声をあげる間もなく、意識は黒く塗りつぶされていった。

(映画のヒロインみたい)

危機感0でそんなことを思い、はたしてヒーローは誰かと考えたところで、完全に意識を失った。


「……だが、あれの…」
「もちろん、…残りは……です。解決……」
「…それは、……今度から…てくれ。…悠さんの様子は?」

悠さん?私だ。私の様子…?
そうだ、私襲われて……どうなったんだろう。
助かったのかな

「私が見る。ワタリは手配を…」

足音が近づいてくる。
反射的に目を閉じた。そこで、自分がベッドに―――ほとんど使われていないLのベッドで寝ていることに気づいた。
持ち主と違って、甘い匂いはまったくしない。……ちゃんと寝ているのだろうか。

「悠さん」

薄っぺらな声と冷たい手が降ってくる。
細長い指が瞼をなぞった。
僅かに震える指先はしばらく瞼に置かれ、やがて離れていった。

「悠さん、」

相変わらず平たい声。ただ、先ほどより上ずっているように思える。
…起きるタイミングを失ってしまった。

Lは怒っている?悲しんでいる?それとも、何も思ってない……?
わからない。今目を開けて、言われる言葉はなんだろう。
出て行けと言われたらどうしよう。
分からない…こわい。

「悠さん、目を開けてください」
「っ、」

起きているのがバレてしまった。
ゆっくりと瞼を押し上げると、目尻に溜まった涙がこぼれる。
急いでシーツで拭った。それでも溢れるしょっぱい水は、私の視界を曇らせる。

「、!」

何も出来ずに泣いていると、突然目の前が真っ白になった。
甘い香りが鼻腔に広がる。

「悠さん」

Lの長い腕が背中にある。

「え、る」

自分の口からひび割れた音が漏れた。

これはさよならの抱擁だろうか。
それなら、今のうちにLを憶えておこう。
空気も、体も、声も顔も匂いもすべて。

決意して顔を上げると、悲しい顔をしたL。
何かしてしまった?
焦る私をよそに、Lは呟いた。

「悠、さん。…すみませんでした、次は必ず守ってみせます。だから……傍にいてください」



なんでLが謝るんだろう。
なんで私なんかに傍にいて欲しいんだろう。
私が全部悪いのに、私がいたって邪魔になるだけなのに。
捨てて、良かったのに。



大きな雫がこぼれ落ちた。
喉まで出かかった謝罪は、ぐちゃぐちゃになって消えた。








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