私の同居人は、はっきり言ってとても変わり者だ。 まずはじめに、稀にみる甘党だということ。名前を教えてくれないこと。座り方が変ということ。 それから、写真が一つもないこと。 私は、小さい頃に何かの事件に巻き込まれて孤児になったらしい。 らしいというのは、事件のショックで記憶を失ってしまい、彼と生活を始める以前の記憶がないため、昔のことは人から聞いた情報のみで成り立っている。 だから、確証は持てない。彼が名探偵ということも、私の味方であることも。 「悠さん、コーヒーを淹れてきてください」 平淡な声に返事をして、いつものように苦い液体をつくる。 適当にワタリの真似をして、仕上げに角砂糖をドバドバ放り込んで完成。 甘ったるい香り。ふわふわした優しいはずの香りが、なんとなく嫌になった。 「はい」 「ありがとうございます」 くたくたの白いTシャツ。 猫背の彼が着ているそれは、甘い匂いが染み込んでいる。何度洗濯したって取れない、甘い砂糖のにおい。 彼が仕事をするために必要な、甘い甘いにおい。 「機嫌が悪いですね。何かありましたか?」 「……特に、なにも」 「そうですか。」 そうしてまた、キーボードをかたかた鳴らす。時折私が淹れたコーヒーを啜って、やっぱり、カタカタガタガタ。 彼から少し離れたスファーに座って、体育座りをした。ひざとひざの間に顔を埋める。 ちらりと顔を上げれば、さっきと同じようにカタカタやってる彼がいた。 「える、Lさん。」 「はい」 表情のない返答に、胸の奥がぎゅっと縮んだ。 「……お仕事、頑張ってください」 一瞬、猫背がぴくっと動いた。 が、すぐにいつもどおりの角度に戻る。もちろんですと答えた音には、何の変化も無かった。 その日、仕事がはやく終わって一緒の食事が出来たのは、私が声をかけたからだと信じたい。 |