朝の生まれる音がする。


 風の声が鼓膜を揺さぶって、ごうごうという音を知る。早く起きた朝は、何故か全然眠くない。それでも布団からは出ずに、二度目の眠りを待った。桃色の少女が起こしに来るまで、まどろみの中へ。

 労咳という死病が世にあるのは知っていた。空咳をするあの人がそれを抱え込んでいるとは考えたこともなかった。誰だってそうだろう。あの土方さんでさえ、目に見える動揺を少し残した。

「沖田組長、咳が出て、血を吐く病気なんですってね」
「……誰から聞いた」
「本人ですよ」

 もういい。考えるのはやめよう。少し泣きそうな顔をしていた気もするけれど、ああ、いいじゃないか。どうだっていいじゃないか。先に攻撃してきたのはあちら側だ。何もしたくない。このまま暖かい海に沈んでいたい。なにもいらない。

『悠ちゃん、僕ね、弱っていくよ。復讐できるよ』

 わらってなんか、いなかった。名前を呼ばれたのも初めてだった。

 吸って吐くのが面倒くさい。肉を絶つのが面倒くさい。人を救うのが面倒くさい。話すのが面倒くさい。生きていくのが面倒くさい。死ぬのが面倒くさい。なにもできない。泣きたくない。笑えない。

「弱ったって、復讐なんてしませんよ。面倒くさい」

 偽善めいた優しい言葉を、他人が言うのを聞くように呟いた。


 朝の生まれる音がする。初めて、早く彼女に起こしてもらいたいと思った。


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