霞む視界で、短くなった髪が揺れる。小柄な彼女の大きな背中。響く金属音で此方が優勢だと分かった。本当に努力したんだ、この子は。
 一際嫌な音と赤い飛沫、刀身を鞘に収める彼女。
 私達は生き残った。

「大丈夫ですか!」
「動けるよ、大丈夫」

 あえて、彼女が望む返答はしなかった。刀を地面に突き立て、それを支えに立ち上がる。靄掛かった世界に彼女の姿が映る。傷は一つも無かった。

「私は、少し疲れたので……休みますね」
「……わかった」

 彼女が休息をとるなら、私も歩みを止めるしかない。図ってそうしたのだと分かったが、反論する気にはなれなかった。大樹の幹に背を預け、一息。遠くに炎の赤が見えた。

「半刻したら行こう。いつ襲われるか分からない」
「……はい」

 千鶴は不服そうだったが、私の言うことは正論だ。いくら彼女の腕が確かでも疲労には勝てない。私のように。

「風間さんが現れなければいいんですけど……」

 そっと呟いた彼女に、短い肯定を返す。悪い予感ほど当たるものだ。でも、今だけは。

「早くごろごろ出来る生活に戻りたい」
「……それはそれで……えっと……」

 返事に窮する雪村千鶴へ、苦笑を投げる。月の綺麗な夜だった。


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