真っ暗だ。黒くて痛くて寒い。 私は死んだのか? 「そうだよ。君は死んじゃった」 誰? 「あれ、僕のこと忘れちゃったの? 親愛なる沖田隊長のことを」 ……私は死んだんですね。沖田隊長は何故ここに? 「可愛い部下が一人で死んだんじゃあ可哀想だと思ってね。僕も来てあげたんだよ」 ふざけないで下さい。 「……まったく、相変わらず冗談が通じないんだから。僕は死んでないし、君も死んでないよ。でも、お腹の傷は残るだろうね。お嫁にいける?」 いざとなったら、永倉隊長が貰ってくれますから。 …死んでないなら、ここはどこです? 暗いし寒いし、早く屯所に戻りたいです。 「屯所でいいの?」 ……? 「家に帰らなくていいの? 新選組で千鶴ちゃんのお守りしてるより良いんじゃないかな」 ッ…帰れるものなら、帰ってます、よ。 「そうだね、君弱いもんね。仲間とは打ち解けられないし、覚悟は無いし信憑性も無い。これじゃあ帰ったほうが楽だよね」 …誰が、……誰がそうさせたんですか! 私を異物として扱うよう煽ったのは誰ですか! 「さあ、誰だろう。…そろそろ起きないと、山崎君怖いよ? それじゃあね」 「待っ……!」 「悠さん?」 今のは何だったんだろう。 苦しい。激情が全身を駆け巡る。憎しみ、悲しみ、嘆き。 少女が心配そうに此方を見ている。 「横になっていて下さい。傷が開いてしまいますから」 おびただしい量の汗が吹き出て気持ち悪い。浅く息を吐いていると、少女―――雪村さんが何か言いたそうにしているのが見えた。 やがて、意を決したように目を合わせる。 「充分に回復していないのに巡察に出るのは、皆さん反対した筈です。私がとやかく言える立場ではないのは分かっているけど、」 「なら、何も言わなくていい」 収まってきた怒りが再びふつふつと煮え滾る。私は少女の澄んだ瞳が苦手だった。 「そ、そんな言い方しなくたって…」 「じゃあ何と言えばいいの。貴方は何も知らない。どす黒く汚いものを知らない。誰かの涙を知らない。少しでも力がある人が、助けに行かなくてはいけない」 「でもっ」 「私がいなかったら、あの女の子は心身に深い傷を負っていた。私は弱く脆いけど、それでも人を助けられる。世界は貴方が見てきた以上に苦しくて汚いよ」 「っ……」 「知らない人は、何も言わなくていい」 言い終えて、しまったと思った。まるで子供じゃないか。相手のことを考えず、泣き喚く。きっと泣かせてしまった。 …でも、それでいいかもしれない。彼女は私を嫌ってくれるだろう。雪村さんはこれからも美しい世界で生きていく、生きていける。何も知らないまま。 「なら、」 傍らから震える声がした。 「だったら! 教えてください、全部! 苦しいことも汚いことも、全部! 悠さんが無理をする理由がそこにあるなら、全部見せて下さい! 綺麗な人生なんていりません!」 少女は泣いていた。起き上がり、白い頬に流れるものを拭おうとして、自分にもそれが流れていることに気づく。 細い腕が背中に回った。小さな温もりが悲しくて、その震える肩に額を押し付けた。 日が落ちるまで、泣き続けた。 |