とどのつまり、私は馬鹿だったんだ。
女としての幸せを望んでいたら、こんな捻くれた性格にもならなかっただろうし。
軽い気持ちで新選組に志願した。そしたら受かって、祝入隊。
軽い男装で騙された隊員は、私が女だと知って慌てていた。
沖田さんは、覚悟の無い私を敵視し、追い詰めた。
これから新選組として命をかけるか、それとも逃げて普通の生活をとるか。
知ってのとおり私は面倒くさがりで、卑怯で、屈折している。
当然逃げることを選んだ。選ぶつもりだった。





物音が、する。
水の音と……高い、女の子の声。
重い瞼を押し上げると、真上に誰かが見えた。

「っ悠さん!誰か、誰か!!悠さんがっ……!」

……ああ、屯所だ。
古臭い木の匂いと、薄っぺらな布団。
苦味のある独特の香りがするのは、きっとここが山崎さんのもう一つの部屋だから。
苦い苦い、薬の香り。
口内の隅に残っている、石田散薬の味。


羅刹に殺されそうになって、気がついたら包帯だらけになって寝ていた、あのとき知った苦い味。
逃げるという選択肢は無くなってしまった。目が覚めて、包帯の理由を思い出してから悟った。
初めて死体を見た日。初めて刀を持った日。初めて人を殺した日。
私は必ず怪我をしていて、苦みは常に口内にあった。
苦い想いと共に、それはいつもあった。

「雪村、さん」

優しい彼女を正面から見れない私は、手の届くところにいる限り彼女を守ろうとした。
八方美人で偽善者な彼女を守って、世界を嘲笑しとうとした。
一生綺麗なまま、ずっと何も知らずに生きていけばいいと。

「ごめんなさい」

そんな気持ちで守ろうとしてごめんなさい
そんな気持ちなのに、守れなくてごめん。

涙を零した彼女はとても可憐で、ひどく憎らしかった。


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