※流血注意




池田屋。
浪士の密会だかなんだか知らないが、いつもは屯所で待機の私まで駆り出されたということは結構大事になっているようだ。
……大事の、はずなんだけど。

「っ、高橋さん!」

なんで雪村さんがいるの
ここ、結構危ないんだけど。

「高橋さん、血が……!!」
「ここは危ないから、とりあえず上にいる二人見てきて。早く」
「でも、」

ガキンと刃がぶつかり合う。かなり重い。
こういうとき、自分が男だったらってよく思う。
力勝負になるのを防ぐために、相手のそれを横に薙ぎ払った。
運良く、浪士はバランスを崩して倒れこむ。
鳩尾目掛けて踵を振り落とすと、小さく呻いて動かなくなる。たぶん、気絶した。
力も技術もない私は、こういう意地汚いやり方をしないと戦えない。
昔は気にしていたけれど、今はもうどうでもよくなった。

「高橋さん、止血しないと…!」
「……」

まったく、この子は。
普通なら嫌気が差すところだが、大きな目には焦りしかない。知り合ったばかりの無愛想な女を救うために必死になっている。
悪い気はしない。でも、

「伏せて!」

自分のものとは思えない咆哮。彼女の後ろには刀を振り下ろす男がいた。
驚きで動けない少女を突き飛ばして刀の軌跡に割り込む。構えた得物が受け止めきれることを祈った。

「あっ、」

高い声が耳に入った。悪戯を大人に見られた子供のような、良くないものを見てしまったような、そんな声。
私の刀は確かにそれを受け止めた。が、相手は素早く持ち直し、今度は刃を真横に振った。たぶん。

思いっきりやられた。綺麗に裂かれた腹から血液が勢い良く噴出する。
痛みとかそういうものを感じる前に、後ろにいる少女の身を案じた。

「雪村さん、逃げて」

言葉を吐き出した途端、焼き付くような痛みが身体の中心から足の先までを焦がす。
意識だけは飛ばさないよう、歯を食いしばって返答を待った。
しかし、いつまでたっても鈴を振るったような声は聞こえない。
まさか。

「雪村さ、」

振り返ってみたものの、痛みで視界が真っ白になってしまった。
まずい、死ぬかも。
気力で刀をたぐり寄せ、強く握る。
生きる生きる生きる生きる、絶対に生きる。

遠くで私を呼ぶ声がしたけれど、返事をすることは出来なかった。




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