なんてことだ。ああ、ああもう。

「……それ、本当ですか?」
「ああ。」

よりによってあいつのお気に入りとは。
じゃああいつにお世話係任せればいいじゃないですか!なんて言うほど、自分は浅はかでもない。彼に仕事をさせるとろくな事にならないし、相手が人間なら尚更だ。

「行ったほうが、いいんですね」
「そうだな」

のろのろと腰を上げれば、急かす様に咳払いをする副長。じゃあお前が行け!なんて言うほどの勇気は無いので、少し動作を早くする。
…はあ。

「睡眠はちゃんととって下さい、副長。それでは」
「…おう」






「誰って……えっと、」
「言えない人なの?」

どうしよう。言っていいのかな。
でも、なんだか空気が冷たくなったし…そもそもこの人が誰なのか分からない。
落ち着け私、しっかりするんだ。

「と、とりあえず離してくださいっ」

目を塞ぐ手を引き剥がそうとしたけど、やっぱり少しも動かない。

「嫌がられると、もっとしたくなっちゃうんだけどな……」
「えっ」


「良い雰囲気の中申し訳ありません。沖田組長、手を離していただけますか?」

空気よりも冷たい、しかし緊張感は全く無い声が響いた。
誰なのか見ようとしたけれど、視界は塞がれたまま。
というか、沖田さんだったんだ……。

「…ふうん、君が?」
「何がです?……いや、まずその手を離して下さい。」
「はいはい」

唐突に広がる視界。太陽の光は眩しくて、一瞬目がくらんだ。
瞬きを数回してから、助けてくれた相手を探す。

「……高橋さん」
「どうも。自由になったことだし、自分の部屋に戻ってて欲しい」
「あっ、はい!わかりました!」

なんか不機嫌…?とりあえず部屋に戻ろう。
急いで後ろを振り返ると、笑顔の沖田さんが立ち塞がっていた。
目線の先には、たぶん高橋さんがいる。

「あの、通してください。」

おそるおそる頼んだが、沖田さんはにっこり笑っただけだった。
強行突破?
高橋さんに視線で助けを求めると、彼女は大きなため息をついた。

「沖田組長、気に入ってるのはわかったので、今は行かせてやって下さい」
「どうして君の頼みを聞かなくちゃいけないのかな?」
「……事情はすべてお話しますので。」

仕方ないなと言って、沖田さんはやっと私を通してくれた。
二人が気になるけど、今は高橋さんの指示に従っておくべきだろう。
私は足早にその場を去った。



「で、なんで君が千鶴ちゃんのこと知ってるの?」

猫のように目を細めた男を、ため息交じりに見つめる。やっぱりこの高圧的な空気は苦手だ。
どうやって話せばいいんだ。……考えるのも面倒くさい。
とりあえず、一番色々考えているだろう人の名前を出した。

「副長が全部知ってますので、其方にお聞きください。」



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