包帯をとれば、そこにはもう傷は無かった。 「……ハア」 今日から隊務に戻らなければならない。私が駆り出されるのは少ないけれど、最近は皆忙しいらしい。 ずしりと重い刀を取り、部屋を出た。 「本当に大丈夫なのかよ、高橋」 「額に包帯巻いてる人間には言われたくない言葉ですね」 まだ幼さの残る青年の名は藤堂平助。先日の斬り合いで額を負傷した。…ついでに言うと、永倉隊長も怪我をしていたらしい。なんであんなに元気だったんだろうか。 「行くぞ?」 「あ、はい」 京の町を歩く。不逞の輩がいないか見張りながら、が表向きだけれど、私はぶらぶら歩いているだけ。気を張っているより力を抜いていた方が、いざという時動きやすいのだ。…そんなのは私だけらしいけれど。 何の気もなしに、ふいっと路地を覗く。 ……そこには、悠が最も嫌う光景があった。 「…は、ちょっ高橋! どこ行くんだよ!」 全速力でそこへ向かう。男の背中に飛び掛り、思いっきり踏みつけた。 あ、また手足使っちゃった。 「ぐあっ」 「ひ、」 男の下にいた女の子を引っ張り出し、着物が乱れているのを隠すために羽織をかける。 まったく、胸糞悪い。 不快な思いを吐き出すように、男の鳩尾を蹴り上げた。やっぱり刀を使うより手間がかからない。 「大丈夫ですか」 「ふっ、う、怖かっ…」 「……」 どうすればいい? とりあえずそこらの隊士に引き渡して…いや、男への恐怖心はまだ残ってるだろうから、私が連れて行くべきか。…どこに連れて行く? この子の家か。でもまだ動揺してるだろうし……ああもう! 「とりあえず安全なとこ、ろ」 「きゃ、」 女の子が目を見開いてる。どうしたんだろう。 瞬間、腹部に強烈な痛みがはしった。刃物で切られたような鋭い感覚に思わず蹲る。傷が開いた?いや、もう塞がっていたはずだ。…中は回復していなかった? 「この、馬鹿!」 藤堂隊長が叫んで、男の呻き声やら女の子の悲鳴やらが鼓膜をぐらぐら揺らした。あいつまだ気絶してなかったのか。 ズキンズキンと腹に響く痛みは、悠の意識を塗り潰していった。 「ち、くしょう」 |