「手足に任せるなとあれほど言ったにも関わらずこのような結果となった理由を話せ」
「…すみません、思わず使ってしまいました」
「謝るのなら自分の身体に謝れ。それより今は原因の追究が先だ。何故予期せず使うことになった」
「浪士が雪村さんに襲い掛かろうとしていたので、つい……」
「雪村のせいということか」
「いえ、私の力不足のせいです」
「ならば、これから自分のすべき事は分かるな?」
「はい。まずはしっかり養生し、完全に回復してから鍛錬に励みます」
「うむ、ではしっかり身体を休めろ」
「はい」







「高橋、お前顔真っ青だぞ。寝てた方がいいんじゃねぇか?」
「殺されるかと思った……」
「は?」
「あ、永倉隊長。どうしました?」
「見舞いだ見舞い。ばっさりやられたんだって?」
「ええ、刀の味を知りました」
「ははっ!左之に言ってやらねぇとな!」
「あー…でも怒られそうですね」
「なんでだ?」
「女が身体傷つけるなんて…とか、そういう。」
「確かに女が傷つくるのはなぁ……まあ、いざとなったら俺が嫁に貰ってやるからよ!」
「ご冗談を」
「ひでえな、おい」


永倉隊長が帰って、室内はやっと静かになった。腹の傷はまだ痛いけれど、休んでいればすぐ治る。
あれ以来雪村さんとは話していない。何と言ったら良いのかわからなくて、面倒になり放置。他人の気持ちを考えるのはなかなか難しくて、億劫になる。
雪村さんなら、きっと今もどうしたら私と普通に話せるか考えているだろう。
無性に苛ついた。どう考えても非があるのは私だけれど。

真っ直ぐなあの瞳に汚い現実を見せたなら、彼女はどうするのだろう。目を塞いで知らないふり?偽善を振りまく?それとも絶望する?
私、本当に嫌な奴だ。


「失礼します。」

透き通るような声が響いて、障子の戸がゆっくり開く。来訪者は言わずもがな、雪村さんだ。手に持っているのは、苦い苦い石田散薬。

「具合はどうですか?」
「…まだ少し、痛い」
「そう、ですか」

みるみる顔が曇っていく。男なら思わず抱き寄せたくなるだろう。
ああ、何だか苛々する。

「悠さん、あの……すみませんでした。謝って済むことじゃないけれど、それでも、ごめんなさい」
「別に謝ることなんてない。私が勝手にやったことだし」
「でも…」
「申し訳なく思うなら、戦場に立つに相応しい刀の腕を身につけてほしい」

守ろうとするなら、それに見合う力をつけろ。
いつか言われた言葉。それを聞いてから、私は自分だけを守ることにした。
自分勝手だと言われても、私はそれだけで精一杯だ。私は強くない。

「はい。私頑張ります!」

このままじゃ、私はいつか雪村さんをぼろぼろに傷つける。お世話係なんて女中でも雇ってしまえばいいのに。
差し出された薬を飲んで、ふと彼女が自分を名前で呼んでいることに気づいた。


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