「私はとんでもないことをしました。許されるべきではないけれど、それでも…それでもこのゲームの中では、私の行動を肯定して欲しい。突き放せば、ハッピーエンド、本当の終わりです。現実は、そうではありませんでしたが」
ふんわり笑って、菊ちゃんはコントローラーを手放した。ガタンと床に落ち、そのまま。
画面には、彼の恋人だった少女が満面の笑みを浮かべている。
『信じてくれなくてどうしようかと思った。……でも、あの時貴方が信じていたら、二人とも幸せになれなかったよね』
ぽつぽつと表示される言葉は、目の上を滑るだけ。俺はなんと言ったら良いのか分からなかった。
悩んで、おもむろにしゃがみ込む。
「…私は、……名前さんが好きです。好きだったのに、なんで…なんで信じてやれなかったんでしょうね」
異世界なんて、信じれるわけないじゃないか。菊ちゃんは普通の反応をしたんだ。
だからそんなに自分を責めないでくれ。苗字さんだって悲しむだろう?
言葉が出ることは無かった。ここにいるのがフェリシアーノやルートヴィッヒなら、どうすれば良いのか分かったかもしれない。
「菊ちゃん」
振り返った彼の目に涙の膜が出来ていた。
俺は、どうしようもなく無力だった。
この日を境に、菊ちゃんが少しずつおかしくなり始める。そのことに関しても、俺は何も出来なかった。何一つ、してやれなかった。