恋というのは見た目よりも複雑なつくりをしていて、思ったより苦く酸っぱく、ほんのり甘い。
そんな難しいものを理解するのは不可能。一生恋愛なんてしないと思っていた自分が、まさか転校生に恋慕を抱き交際に至るなんて考えもしませんでした。


「苗字さん、帰りましょうか」
「はい!」


温もりを秘めた笑みを湛え、走り寄ってくる彼女。転校当初は少し怯えているような節もありましたが、今ではそんなことを思い出せなくなるほど明るいのです。
明るいだけでなく、気遣いも出来て勉強も中の上。
私の趣味にも理解はあり、むしろ積極的に知ろうとして下さいます。私には勿体無いほどの女性です。


「菊さん、どこか寄ってから帰りません?」
「そうですね。どこに行きましょう?」
「うーん……あ、この間出来たお店とか!」


彼女は本当に素敵です。いつでも取り乱さないし、言葉は信用出来る。


「少し、話したいことがあるんだけど……良いですか?」


だから、彼女があんな戯言を言うとは思いもしなかった。





「……は?」
「っ…私、異世界から来たんです。信じてもらえないかもしれないけど、本当のこと。菊さんは、私の世界ではアニメのキャラクターなんです」
「冗談、」
「本気です。本当なんです。信じて」
「………」


幻滅、した。誰がそんなこと信じられるでしょう。…ああ、アルフレッドさんあたりなら信じそうですね。
何もかもが輝いて見えた彼女。幻想はガラガラと崩れ去り、軽蔑と虚無だけが残る。


「貴方がそんな人だとは思いませんでした」


厳しく言えば、彼女は戻れるかもしれない。一度お灸を据えてあげなければ。


「……、菊さんのばかっ」
「なっ」


苗字さんは自分の鞄を引っ掴むと走って店を出て行きました。慌てて代金を置いて私も追いかけます。


「苗字さん!」


道を曲がったその先に、ひらりとはためくセーラー服。進む先は道路の向こう側。


「え……」


勢い良く駆け出した彼女の真横に、大型のトラックがありました。
無機質な鉄の塊は、小さい彼女を跳ね飛ばしました。
おそろいのストラップがついた鞄が宙を舞い、地面に叩きつけられ……


「苗字、さ……」








世界がみるみる色を無くし、絶望が肺に満たされる。
なんて浅はかなことを。そうだ、あの彼女が現実味のないことを言う筈が無い。つまり、あの話は本当だった。
なんて、なんてことを。




「菊ちゃん、ゲーム作ってるんだって?」
「ええ。少しアクの強い恋愛シュミレーションゲームです」
「へえ、今度見せてくれないか?」
「良いですよ。…驚かないで下さいね」



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