和室に置かれているテレビゲームの存在感は、かなり大きい。
見慣れている私はともかく、初めてそれを目にしたフランシスさんは驚いた後苦笑していました。
……まあ、仕方ないでしょう。
「ここが、最初の選択肢です。…私はこれを選んだのですが、どうでしょうか?」
「うん…俺もこれでいいと思うよ。」
「ではこれで。スキップします。……この選択肢は?」
「一番上かな」
「やはりですか。」
ストーリーはどんどん進んでいく。やっと、物置部屋の彼女の正体が明かされました。
「……へえ、異世界からの使者。」
「…らしいですね。」
そういう内容なのだから、文句を言っても仕方けれど。
飛ばし飛ばしで進めるうちに、話は佳境を迎えたようです。
『信じて!お願いだから、私を……』
「……私は、下の選択肢を選びました。」
「『わかった、信じる。』……か。まあ普通にいけばこれだね」
「ええ」
この選択肢だけは自信があります。ここで突き放したらBADENDまっしぐら。長年の勘で、こういう選択肢が出た場合相手を肯定するべきだと心得ています。
「…菊ちゃん、これは?」
「これは『追いかける』しかないと思います。」
「……そうだね。」
気のせいか、一瞬泣きそうな顔をしたフランシスさん。感情移入してしまったのでしょうか。流石、色恋に長けてらっしゃる方なだけある。
「あっ」
「……ああ、またBAD…。」
フランシスさんを持ってしても無理ですか。
一体どの組み合わせが正解なのか…。
「ねえ菊ちゃん、あそこで『突き放す』選択をしてみない?意外に正解だったりして。」
考え込む私に、フランシスさんは提案しました。
意表をつくという手もありますが、しかし……。
「…私は、あの選択肢で合っていると思います。突き放すなんて考えられません。」
無意識のうちに、苗字さんと攻略相手を重ねている自分がいました。
彼女を拒絶するなんて考えられないし、したくない。
……どうして?
それは、彼女があまりに不憫だから。苦しみもがいて、私に助けを求めたから。
「…大丈夫か?顔色悪くない?」
現実に意識を戻せば、心配そうな彼と目が合いました。
ああ、またご迷惑を…。
「大丈夫ですよ。…それより、暗くなってきましたね。お帰りになられた方が……」
「…そうだな、そろそろ帰るよ。頼りたいときに頼ってくれよ。俺はみんなのお兄さんだからね」
ウィンクを飛ばすフランシスさんに愛想笑いを浮かべ、送り出しました。
……さて、今度はどういう組み合わせでいきましょうか。
二つ目の質問を最後のものにしてみますか。
意気揚々と家に入る私を、心配そうに振り返る彼。
当然、私はそれに気づきませんでした。