「俺さー、ポップコーンシュリンプが好きなんだよねー」

「何それ。なんか名前かわいいんだけど」


いつもと同じく唐突に始まる会話。ぼんやりとした無音の時間はわりと好きだけれど、やはり相手がいるなら喋っていたほうが楽しい。


「えっお前もしかしてポップコーンシュリンプ知らないのか?!ポップコーンシュリンプだぞ?!」

「とりあえずポップコーンシュリンプって言葉を言いたいだけなのはわかったけど、それはシュリンプとポップコーン混ぜた何かか?」


シュリンプってエビだよな。エビとポップコーン…仮に塩味だとしてそれとごちゃ混ぜ?味が想像できそうでできない。


「ちっげえよ!フライにしたみたいなやつ!ポップコーンは正直どこが関係してるのかわかんねえけど…色か……?」


自分で喋りながら疑問をぶつけるのはやめてくれ。俺は知ったこっちゃねえ。


「で、何でいきなりその話をしたんだよ」

「いや、別に意味はねえけど」


なんか必要だったか?と小首を傾げる姿はむさい男の癖してかわいく見えるのだからなんとも言えない。ついでにミルクブラウンのふわふわした髪が更にほわほわするのも解せない。


「いや、いいけどさ…。つーか、家通り過ぎたけど」

「あ、バレた?」


どうやら沈黙を唐突に破ったのは、それを誤魔化そうとするためだったらしい。


「あのさー、今日泊めてくんねえ?」

「駄目って言ったら?」

「野宿かな」


遠い目をしてさらっと言いのける。きっと冗談でもなんでもなくこいつは俺の家の目の前を陣取って一夜を明かす気だろう。昔本気でやりやがったからな。俺の家は花屋なのに、大の男が、一晩中、店の前で。とんだ営業妨害だ。


「前みたいに、朝っぱらから心臓止まりそうになるのは勘弁して欲しいから泊めてやるよ」

「ははは、そう言ってくれると思ってた。ありがと」


馬鹿じゃねえの。軽く言うなら手の震えも止めてしまえばいいのに。俺にばれたくないのかなんなのかはっきりしろよ、とどうにもならない愚痴をつらつらと頭の中で並べ立てる。

もしはっきり助けてくれでも何でも言ってくれたら、とか、自分の優柔不断さを塗り固めて誤魔化したみたいな塊を吐き出してみたり。


「じゃ、コンビニでも寄ってくか?」

「いや、今回はちゃんと菓子からゲームまで取り揃えてきた」


お前完全に泊まらせてもらえると思ってただろ。しかもゲームってなんだよ。どうりでいつもよりサイズの大きい鞄を持ってたのかこいつ。


「あ、泊まらせてやる代わりに客にでもなれよ」

「はいはい。今日は金欠じゃないから大サービスしてあげるー」


そう言いつつばちこーん、とでも音がしそうなウインクをかましてきた。無駄に顔がいいから似合ってて腹が立つ。しかも無駄に上手い。無駄の多い男と命名してやろうか。

あんまりにもいらついたから、思いっきり左頬を引っ張りながら、制止の声も無視して歩いた。


「ほ?」


痛い痛い!と叫びまくっていた声がいきなり止まったかと思うと、腑抜けな声が聞こえた所為で思わず立ち止まった。


「ひっはひへーひひ」

「すまん何言ってるか全然わからん」


ぱっと手を離すと、少々横に伸びた顔で真剣な目つきになった。


「今何か言いかけたんだけど忘れた」

「それすごい気になるやつじゃん頑張って思い出してよ」



落ち着けない自分と、平然として残照に頬が染まったお前の顔を見てたら、無性に殴りたくなった。