負けたくない



――観戦組




「…及川」

「うん」

「やっと入ったか」

「体力が1分もつと踏んだんだね」

「…こういう時に、賭けはしないだろうからな」

「…あれが春斗先輩の本気。眼に全く色がないですね…」

「無心にしているだけだ」

「…てことは、本気は“無心”の時、つまり必然的に本能――直感で動いてるってわけね」

「そういう事だな」

「えっ?及川先輩も岩泉先輩も知ってたんじゃないんですか?」

「俺と岩ちゃんの知ってるそれとは違うやり方を、ハルは今編み出したみたいだね」

「アイツの才能には毎回脱帽するよな…」

「ほんとだよ…」

「…凄いです。俺もあんな風になりたいな…」

「ひーちゃんならなれるよ。光るものを持っていると思うし」

「…ほんとですか岩泉先輩」


…ことごとく及川の事が信じられないのだろうか。

まぁ、あんな奴だからそう思うのも無理はないな。

そう思い、声を返す。


「蓮浦が何か光るものを持っているのは確かだと俺も思う」

「ほらー。たまには俺の事を信じなさい」

「調子に乗るなクズ川」




こんな会話をしながらも、俺達の両目はコート内に釘付けだった。





…ハル。“ダンク”頼んだぞ?








――黄瀬




あのシュートが防がれるなんて思ってもなかった。

ましてや彼が防ぐなどとは。

だが、それ以上に驚いたのが、その時の彼の顔。


驚きと得心に満ちていた。


そして、そのすぐ後、彼の纏う雰囲気が一変した。





ぞくりとした。

背中に冷たいものが走った。





……こんなの青峰っち以来っスね、たぶん。



全快している己なら、彼に対して幾分か勝算はあったかもしれない。



…まぁ勝算がないからといって、手を抜くような馬鹿な真似はしないっスけど。



だから、自分ができる事をやろう。この化け物を制して、この試合に勝とう。






大好きな海常の皆とともに――。









――視点なし




その後、試合が終了するまでの間、観客は試合に釘付けとなった。

息を飲む事さえ出来ない程に。

それ程までに、コート内の選手達の気持ちが伝わってきたからだ。


“負けたくない”


というそれが。



たかが練習試合、されど練習試合、とはよく言ったものだ。





―この試合に参加していた者、観戦していた者、双方の心に強く残る試合であった。そう言って、過言はないだろう。






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