可愛い後輩
――同高校 第一体育館
「おっ、来てる来てる」
「「?……!」」
「来てくれたかひーちゃん」
「他ならぬ春斗先輩のお誘いですから。それに、今日は練習が休みだったので」
「…何にしても、よく来たな蓮浦」
「暫らく振りです岩泉先輩」
「……」
「岩泉先輩?」
「…お前、背伸びたか?」
「本当ですか?!」
「あぁ、何となく前より目線が高い気がしてな」
「確かに伸びてるかもな、ひーちゃん」
「そのまま岩ちゃんは抜かされちゃうんだよね〜きっと」
「うるせぇ黙れクズ川」
このような光景もまたお決まりで。
毎回期待を裏切らずにやってくれるよなぁと思いながら、二人を見ていたら、ひーちゃんがこそこそと耳打ちをしてきた。
それに合わせて小さめの声で応える。
「どうした?」
「相変わらずこんな感じなんですか、お二人とも」
「あぁ。毎回期待を裏切らずにやってくれるよ。…で、どうした?用はそれだけじゃないだろ?」
「ちょっと下を見て下さい」
言われた通りに下を見る。青城のバスケ部が練習している。別にどこにもおかしい所などない。
「…春斗先輩。青葉城西の方じゃなくって、相手校の方を見て下さい」
…相手校の方か。
そう思いながら、視線をそっちにやる。
“海常高校”
と、幕に大きく書いてある。
「…強豪じゃないか」
「しかも今年、あの“キセキの世代”の一人を獲得したんですよね確か」
「勝ち目ないなそれは」
「ですねー…ってそうじゃなくて」
じゃあ、何だ。視線でそう問う。
「選手を見て下さい」
「どれだ?」
「今アップを終えて、ベンチに戻っていく二人です」
「あの黒髪と金髪の奴だな?」
「はい」
「あれがどうした……ん?あの金髪、もしかしなくてもモデルの……えーっと、誰だっけ?」
「“黄瀬涼太”ですよ」
「それそれ」
海常が獲得したキセキの世代はモデルをしているので、笑顔になると、確かに華がある。
だが
「なぁひーちゃん」
「はい」
「あの金髪、確かにモデルだから笑顔に華がある。でも、笑顔の時って効果音を言葉で表すと、普通“キラッ”だろ?」
「まぁ…」
「アイツの場合、脳裏に響くそれが何故か“シャララッ☆”なんだけど…」
「あー確かにそうですね。…何ででしょう?」
「彼のアイデンティティーなんじゃない?」
「「成る程…って徹/及川先輩?!」」
……驚いた。物凄くナチュラルに会話に入ってきたから。
「徹、心臓に悪いだろ…」
「ごめんごめん」
「全然悪いと思ってないだろお前」
「バレた?」
「バレバレだアホう」
「だってさぁ、俺と岩ちゃん放っておいて、二人で仲良く話してんじゃん。俺妬いちゃう」
「キメェぞ、及川」
「岩ちゃんヒドいっ」
「ナイス岩ちゃん」
「相変わらずキレッキレですね、岩泉先輩。そのまま、及川先輩を黙らせといて下さい」
「おう。俺を気にせず話を続けろ」
「ありがと岩ちゃん。今度アイス奢るわ」
楽しみにしてる、と言いながら岩ちゃんは再び徹の方に向き直った。
「試合が始まるまで、お前に対して積もり積もった怒りを発散するから、覚悟しろクズ川」
「ちょっ首根っこ引っ張らないでよ!!締まってるから!!!!」
「達者でな徹」
「笑顔で見送るんじゃなくて、岩ちゃん止めてよハルっ!!」
「往生際が悪いですよ及川先輩」
「ひーちゃんまでヒドいよっ!!」
そして、首根っこを引っ張られた徹は、岩ちゃんとともに扉の外へと消えていった。
それを確認した俺とひーちゃんは話の続きに戻った。
「…何の話をしてたんだっけ」
「確か、金髪くんの…」
「おー思い出した思い出した。んで、ひーちゃんさっき何を言いたかったんだ?…話をそらしてばっかで悪いな」
「いえいえ。…えっとですね、金髪くんと黒髪の人の事なんですけど、誰かに似ている気がしますんか?」
「似て……?」
「外見じゃなくて、雰囲気というか、関係性が」
ひーちゃんがそう言ったとき、ちょうど体育館に集まっていた女子達が騒ぎだした。何事かと思ったら、金髪くんが、女子達に向かって手を振っていた。
思わず眉間に皺が寄った。
「……ひーちゃんが何を言いたいか、よく分かった。金髪くんと徹は、全くの同類だな」
「ついでに、黒髪の人も…」
黒髪の男が金髪くんをシバいている様子が、これまたちょうど視界に映る。
「…こっちは岩ちゃんか。何だか、すかっとする光景だな」
「及川先輩が、岩泉先輩にやられているようにしか見えませんもんね…」
そのまま、二人、息をついた。
「なぁひーちゃん」
「はい」
「あの黒髪さんの名前分かるか?」
「確か、主将の笠松さんだったと思います」
「笠松…か、覚えとこ」
それからはお互い無言で開始を待った。
ある一時を除いて…。
開始数十秒前に、やっと徹と岩ちゃんは戻ってきた。
心なしか、岩ちゃんの顔色と機嫌が良いように思う。勿論徹はその正反対で。