似た者同士



――数分後



席は、俺・春斗先輩・及川先輩、向かい側に岩泉先輩・笠松先輩・涼太くんの順に座る事になった。

ついでに、呼び方を決めてなかった人の呼び方も決定した。

涼太くんは名字にセンパイと付けて呼ぶ事にし、笠松先輩と岩泉先輩は名字呼び捨て、及川先輩はくん付け、という事になった。


「まず飲み物とか注文しますか。…マスターお願いします!」


春斗先輩の声でテーブルの方へ近づいてきたのは、60代半ば頃に見えるおじいさん。丁寧に髪を撫で付けている。

「いらっしゃい。今日は人数が多いね、春斗くん」

「後輩と新しく出来た友人に、是非この店を教えたくて」

「それはそれは、ありがとう。及川くんも岩泉くんはお久し振りだね」

「「ご無沙汰してます」」

「それで、三人は飲み物もお菓子もいつものでいいかい?」

「「「お願いします」」」

「はい。…あとの三人はどうするんだい?」


それまでじーっとメニューを見ていた俺と笠松先輩と涼太くんは


「カプチーノをケーキセットでお願いします。ケーキはショートケーキで」

「ブレンドをケーキセットで、…モンブランでお願いします」

「アップルティーをケーキセットで、ケーキはフォンダンショコラをお願いします」

「はいはい。準備するから、ちょっとお待ち下さいね」


注文を受けたマスターは、カウンターの方に戻っていく。


「ここのケーキは絶品だよ。元々マスターはパティシエだったからね」

「そうなんですか!」

「それに、この時間がゆったりと流れている空間が好きでね」

「確かに落ち着くな」


皆、思い思いに店内に視線を滑らせた。

内装も外装も、上品な感じのするアンティークで纏められている。

そのまま暫らくの間、静かな時を過ごした。…及川先輩も静かに。黙っていれば、春斗先輩みたいにただのイケメンなのに…。






「お待たせしたね」


マスターが持ってきたケーキはどれもこれも美味しそうだった。


「うわぁぁぁ…!!!」

「ひーちゃんの笑顔を写…」

「徹、変態が過ぎて引かれてるぞ」

「ウソ」

「…ほんとないですよ及川先輩」

「せっかくケーキ見てたのにな?」


全くです。せっかくケーキを見て楽しんでいたというのに。

……ほんとに残念なイケメンですよね及川先輩…。

と視線で訴えました。





ちょっと待ったら、飲み物も運ばれてきて…


「「「「「「いただきます」」」」」」


と合唱してから、ケーキにフォークを差し込んだ。


「「「!!!」」」

「な?美味しいだろ?」


ほんとに美味しい物を食べると、ため息をつきたくなるってよくテレビで言っていたけど、ほんとなんだと分かった瞬間。


「ほいひぃへふ(美味しいです)」

「口の中の物がなくなってから話しなさいひーちゃん」


あまりの美味しさに、口をモゴモゴさせながら言ったら、春斗先輩に怒られました。

…でも春斗先輩の口元が弛みまくっている性か、いつもの五割減の怖さです。

食事中のマナーに厳しい春斗先輩とは思えない程、優しく怒られました。


「にしても本当に旨いな」

「このアップルティーも美味しいっス」

「いやいやいや、アップルティーより、このストロベリーティーの方が断然美味しいよ」


…言い忘れてました。“いつもの”で片付けられた先輩達のメニューは、春斗先輩がキリマンジャロにベイクドチーズケーキ、及川先輩がストロベリーティーにティラミス、岩泉先輩がエスプレッソにマスカルポーネのセミフレッドです。


「いやいやいや及川センパイ。アップルティーも捨てがたいっスって」

「いーや、ストロベリーティーだね」


二人の不毛な言い争いに残された俺達は苦笑い状態。

二人とも、無駄に整っている顔に余計な迫力を付けないでください…。


「…苦労してそうだな笠松」

「…そっちこそ苦労してそうだな岩泉…」

「…お互い様って奴か」

「みてぇだな…」


そして両人揃って重たい息を吐いた。…お疲れ様です岩泉先輩に笠松先輩…。


「春斗先輩春斗先輩」

「ん?何だひーちゃん」


顔前で繰り広げられる不毛な争いに、辟易している様子の春斗先輩に話し掛ける。


「“似た者同士”ですよね二人とも…」

「あぁ。鬱陶しい程にな…」






――十数分後


未だに争いは続いていた。

いい加減、俺も辟易してきたので、四人を代表して声をあげた。


「いい加減にして下さい二人とも。それだけに何分掛けてるんです。餓鬼ですかあなた達は」

「「いやだって…」」

「聞いているこっちの身にもなって下さい」


一呼吸置く。


「及川先輩。そろそろ止めないと、二人の御仁がキレますよ?…涼太くんも、笠松先輩の頭の血管を切るつもり?」

「…飛空が言いたい事は代弁してくれた。明日から覚悟しとけよ徹」

「ハルに同じく」

「神奈川に戻ったら、…分かっているな?」

「「すみませんでした。後生ですから…」」

「「「遅い/遅せぇ」」」


三人の御仁の笑顔が、恐ろしいです。鬼の形相とはこういう事をいうのかと、しみじみ思いました。

…ほんとに尋常じゃなく恐いんですよ?






支払いを済ませて外に出た。

マスターはいい人で、学生は元気だねぇと暢気に笑っていらっしゃいました。凄い人です。


「あ、あの飛空…くん」

「何?涼太くん」

「え、えと、その…」

「?」

「飛空っちって呼んでもいいスか?」

「いいけど、どうして?」

「俺、尊敬する人には、〜っちて付けるんですよ。だから」

「へぇ」


正直、自分のどこにリスペクトする要素があったか分かんない。

でも、彼にはどこか思う所があったのだろう。






「じゃあ、俺達はここで失礼するぜ」

「また会えるといいっスね」


そう言って、海常の二人と分かれた。

…そう言えばと思い、岩泉先輩に話し掛けた。


「先輩。さっき笠松先輩と何やってたんですか?」

「あー、あれ?メアド交換。お互い愚痴りたい時に愚痴り合おうって事で、な…」

「お疲れ様です…」

「おー。…あ、さっきは悪かった。俺らの代わりに色々言わせて」

「いつもお世話になっていたのでおあいこです」

「そうか…。でもありがとな」

「ほんとにありがとう、飛空」

「は、春斗先輩?!」


急に入ってきたから驚いた。


「マジで助かったからさ。あのままじゃ俺達三人とも怒鳴りそうだったから。……今日は泊まってくんだったよな、帰るぞ!」

「はい!!」


返事をすると頭を撫でてもらえた。春斗先輩だけじゃなく、岩泉先輩にも!


「何の話してんのー」

「お前には教えない」

「えっ?!何で?!どうして?!」

「うるせぇクズ川」

「教えてくれるくらいいーじゃん」

「「断る」」

「ケチー」

「「黙れ」」



春斗先輩と岩泉先輩はいつも格好良くて、及川先輩はいつも変態チック。

俺はそんな先輩達が大好きです!





――春斗


新しい知り合い、自分の本当の力、色々知る事が出来て、いい一日だった。

もし今度また、皆であの店に行く事があったら、今度は馬鹿な事しないでくれよ?






(春斗先輩、晩ご飯何ですか?)
(…決めてなかった。よし、飛雄に聞こう)
(ポークカレー温玉のせになりますよ?)
(それもそうだな…どうしたもんか)




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