「そういえば聞いてくれよ〜」
五月。
入学してから中々なれない高校も今は慣れな来て校舎も迷わないでちゃんと歩けるようになった頃。
俺はなぜか昼休みは栄純と一緒にいるようになった。
「同じ1年のさ、まぁなんつーかポジション被ってるやつ?俺より先に一軍に行ったやつ?そして試合に出たやつ?…そいつがさ、爪割ってさ〜」
「……お前その僻みかっこ悪い…。同じポジションなら…あーー、ピッチャーか。そいつ爪のケアとかしてねえの?」
「うるせえ!!…爪のケアってなんだ?」
爪のケアってか手先のケアってやつ?
ボールを投げるにも些細な感覚で鈍るっていうし、爪の長さとか割れとか早々ないけど痺れとか。てか栄純やってねえの?
「俺は別にそんなのやんなくても出来んだよ!!」
「爪割れて投げらんなくなっても知らねえぞ」
そう言うと何か心当たりがあるのか栄純は黙り込んだ。なんだなんだ。
「そいつ2週間投げるの禁止になってた…!!俺そんなの嫌だ!!どうすりゃいいんだ!」
「どうすりゃって、爪をヤスリで研いだり、マニキュアで保護すれば?」
「わかんねえ!!!やってくれ!!!」
「は?」
え、なに言ってんのこいつ。自分のことなんだから自分でやれよ。
「俺女じゃねえからわかんねえし!」
「俺も女の子じゃないから」
「でもなんか知ってそう」
「………はぁ、じゃあ明日やってやっから昼来いよな」
「ウーーッス!流石なんでか野球に詳しい神様仏様奏太様!!そういえばなんかお前にいうことあったけど忘れたけどいいよな!」
いや、よくねえから。なんだよ、先生からとかだったらマジで栄純殴る。
13時30分。丁度予鈴がなった。その予鈴を聞き栄純は自分のクラスへと帰る。授業開始まであと10分。飲み物でも買いに行こうと俺は席を立った。
自販機のある場所は中庭と食堂付近とその他。この時間は食堂には人は少ないだろうと思い食堂に向かう。何か甘い物飲みたい。疲れた。
自販機が見えてきて、いちご牛乳でも飲もうかなって思っていたらタイミング悪く俺の前に人が。上履きの色からしたらあれは3年の色。別に並んでた訳じゃないからいいけど、その人は中々自販機から退かなかった。
2回目の予鈴がなる前に帰りたいんだけどなんて思ってもその人は自販機から退かない。先に買わせてもらおうと、一歩踏み出すと俺の前、言い方をかえると自販機の前で悩んでる人の後ろを数人がダッシュで走っていく。
「うぉっ」
ガタッ
ピピピピピピ
無機質な音がその場に流れる。
この学校の自販機は4桁のスロットが付いていて今はその音が空気を読まず気まずい空気がその場に流れた。
「クッソ、ふざけんな!!!!!!ぶつかったなら謝れよ!!!!!!」
その人は自販機の横のゴミ箱を蹴りながら、取り出し口から間違えて押してしまっただろう飲み物を出す。
「よりによっていちご牛乳かよ!!!!!」
「ブフッ」
「ア"ァ?誰だァ今笑ったの!!!!」
俺の吹き出した笑い声に気付いたのかその人は振り返る。…なんと強面の先輩だった。ブフッ、いちご牛乳とか
「アハハッ、俺いちご牛乳飲みたいんです。それください。俺が先輩の分買います」
学校の自販機は外より30円ぐらい安くていいよなぁ、マジ。自販機高すぎ。
「何、飲みたいんですか」
一瞬俺の言った意味が分かってなかったのか、眉間に皺を寄せたが合理は合ってるため納得し飲み物を選ぶ。長いなぁこの人。
その人の視線を辿るとコーヒー牛乳と、炭酸飲料で行ったり来たりしていた。
「コーヒー牛乳とこれでいいですか?」
その飲み物のボタン2つに指を合わせ先輩に聞く。
「ハッ!?何すんだよ…あってるけどよ!!」
二択で迷ったらこれ。
俺は二つの飲み物を同時に押す。
ガコン、
「あ、コーヒー牛乳です先輩」
「……サンキュー」
ピピピピピピピピーーピーー
「……当たった」
自販機を見ると数字が揃ってる。しかも4桁とも7777だ。なんか嬉しい。これも人助けのおかげか?なんて。
「じゃあ迷った先輩にこれもあげますよ」
学校ではいちご牛乳しか飲まないし。ほんとに美味しいまじリスペクト。
無機質な音が流れてる間に先輩が迷っていた炭酸飲料も押す。そしてガコン、と音を出して出てくる。
「はい、炭酸」
「お前のだろ、別にいいよ」
「……そうですか、俺炭酸飲めないんだけどなぁ」
わざと眉を下げ、困った風に装う。炭酸飲めるよ普通に。
「…っ、わーったよ!!ありがとな」
素直に受け取る先輩。
丁度2回目の予鈴がなった。
「じゃあ、俺行くんで。いちご牛乳ありがとうございます。いちご牛乳先輩」
「ブフッ」
紙パックで飲んでいたコーヒー牛乳を先輩は吹き出す。
「そんな名前で呼ぶんじゃねえ!!!!」
あーーーあの人揶揄いがいがあるな楽しい。