挑戦的宣言

割れないように


あの衝突の日から俺は栄純と会うことはなかった。ちなみに体操着はまだ返してもらっていない。
まぁクラスも違うし当たり前か。でも体育一緒だからクラスそんな離れてないはずなんだけど…


「奏太いるかーー!!?」

「………」

「奏太ーーー!!!!」


叫びながらも俺の机の前にドカドカとやってきた。てめ、いるの分かってんなら人の名前叫ぶなよ。


「聞こえたなら返事してくれよ!!!」


おいしょー!とかさぁ、っておいしょーってまずなんだ


「で、何しに来たの?体操着?」

「そう!!体操着です!!体操着!!」

「お前人に借りたもん投げ付けんなよバカ」

「なぬ!!!?」



バカとはなんだー!!!と叫ぶバカ村。その発言がもうバカだよね、なんか


「お前野球やってんのはわかるけど無闇にボール以外のもの投げんなよ、それで手痛めても知らねえからな」

「え"っ」

「…なに、他にも心当たりあんのかよ…」


目を反らす栄純の手を取る。
バッドを振って出来たであろうマメや、ボールを投げて出来たであろうマメがたくさんあった。

でも親指とか変なとこに出来てんな…。人差し指と中指の先はそんな出来てねえし…


「お前さ、もしかして投手?つか、エースになりたいって言うんだから投手か」

「……奏太もしかして…!」

「なんだよ…」

「俺のポジション奪う気か!!?エースは譲らねえ!」

「そもそもお前エースじゃねえだろ…、俺野球部じゃねえし」



意外と詳しいよなって聞いてくる栄純はきっと俺のことは知らないんだろう。この野球部は留学制度取ってるし、知らない奴の方が多いのかもしれないけど。



「栄純ボール投げる時さ、もっと力抜いて持って投げてみろよ。そしたらキレも増すんじゃね?」

「力抜くってどれくらいだよ」

「うーん…生卵を手で包む感じ。強く握ると割れるから、そっと握ったりするだろ?」

「???」

「……硬球ボールを生卵だと思って投げろってこと」

「うおおおおわかんねえけどそうすればいいんだな!?今日早速…いや、今からでも師匠か御幸一也にでも頼むしか!!!ありがとな!!!」


嵐のように去っていった栄純。
本当に分かったのかあいつ……元気よく上級生のフロアに向かってたけど…


「投手ねえ……」






▼▼▼








「ボールは生卵…ボールは生卵…」


最近変な友達が出来た。どんな奴かと言うと、

体育はいつも見学をしてて、先生はたまにパシってはいるが特に何も言わない。

女子に人気があってよくキャーキャー言われている。本人は気付いてないけど。

あとなんか野球に詳しい。聞いたら野球は見る専門でやったことないとかいうけどホントかわかんねえ。

「沢村集中しろ」

「ウス!すいやせん!」

ボールは生卵…ボールは生卵…割れないように…そっと…包み込むように……





ーーーーパァアン!!!!



「……ッ」


今の感じ…


「今の球いいぞ。もう一球」


なんだ……投げる瞬間身体が…



次もその次も同じように、生卵を掴むイメージをして投げてみた。
肩が肘が軽かった。動かなかった機械がいきなり動き出したような。


「沢村どうした今日球走ってんじゃん」

「ゲッ、御幸一也…」

「俺もそう思うぞ。手に力が入っていないし…何かあったのか?」

「俺の真の実力ッス!!!」

「違えだろ、絶対誰かに助言されたな?」

「………最近仲良くなった奴に教わったんスよ!!なんか俺の手触って、ボールを力抜いて握って投げてみろって」

「手を見ただけで言われたのか?」

「見ただけ?っていうか触って…」


俺がそう言うと、クリス先輩と御幸は顔を見合わせた。なんだなんだ


「そいつ野球やってたのか?」

「見る専って言ってたッス」


ふーん…と微妙な反応をしたこいつは、今度そいつを練習に連れてこいよと言った。

「いいんスか?」

「あぁ、俺も気になるしな。監督には話を通しておく」

「ほら、練習戻んぞ」




もしかして、あいつってすげえ奴?



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