「死球ね……」
観ていた限りでは首が勢いよく曲がったから威力はあっただろう。
良くてヒビかな……この時期に怪我は……
「最後の夏はお終いか」
3年間踏ん張ってきたものはたった一瞬の出来事で全て無駄になってしまう。
もしかしてこれを機に栄純が試合に出ちゃったりして。
エースナンバーは……ないな、控え投手に渡されそう。……栄純はあり得ないわ、うん。
他に誰いたっけ……。
青道に来る時、やっぱり気になってしまって少しだけ調べたんだけどな……。
「おーい!奏太ー!!」
「ん、どうした?大丈夫……じゃないよな、どうなった?」
「とりあえず担架で運ばれてそのまま病院だと思う……ごめんな!今日せっかく来てくれたのに!」
顔の前で手を合わせて謝る栄純に笑いがこみ上げる。
「栄純のせいじゃないでしょ、お大事にね」
「ありがとな!ほんとは紹介したい仲間もいてな……」
「仲間?」
「春っちって言うんだけど……」
春っち?女の子?
でも栄純がこのタイミングでいうなら男か。
「別に同じ学校なんだからいつでもいいよ、暇なときに紹介してよ」
「おう!すぐにでも紹介する!」
暇なときにって言ったのにな……と苦笑していれば、「沢村〜ァ!」と栄純を呼ぶ声が聞こえる。
「やっべ、もっち先輩が!」
先輩なのに変なあだ名付けてんな……。
「早く行ってこいよ、また明日な」
「明日!!絶対だぞ!クラス行くから!春っち連れて!」
「わかったわかった」
最後まで騒がしく走り去っていく栄純。
野球部の中に加わるのを見ていればケツに蹴りを入れられ吠えているのが見えた。
部活でもそういうポジションなんだな……。
きっとあの人が会話に出たもっち先輩なんだろう。
他にも見渡せば、……あ、いちご牛乳先輩もいるじゃん。あの人野球部だったんだウケる。
他には……あれ、もう一人小湊先輩と同じ髪色をした人がいる。兄弟かな………って、
「うわーーなんかめっちゃ視線感じる」
例の見たことがあるスポサンの人から。
その人は俺を見て目を見開かせた後ニヤリと口角をあげた。
「………関わらんとこ」
もう用事はないし帰るかと俺は爪先を………
「奏太!!!」
返すはずだった。
▼
青道のピッチャーが担架で運ばれて、あーー今年は青道終わりだな、なんて思った。
青道はピッチャーの揃えがあまりない。
それなのに夏直前に抜けてしまった大きな穴。
もし、もしここに………奏太がいれば
違う、いてもダメだ。俺が、俺がダメにしたんだ。
「青道に行ったんじゃなかったのかよ……」
勝手に期待したんだ。
選手じゃなくても、野球に関わっててほしいって。
あれから連絡しても奏太から連絡はなくて。むしろ繋がらないし、メールはエラーが返ってくるし。
少しでも話がしたいのに。
「おーい!奏太ー!!」
奏太と同名の名前が聞こえる。
でもそれは奏太じゃ…………
「違う奏太だ……」
あの煩い1年に話しかけたら奏太は今日来るって言ってたはず。
今の声はあの1年の声。
じゃあ駆けていくあの1年の先は……
「…………奏太だ」
あぁ、奏太がいる。
あの時とは違う髪色だけど、あの表情、あの年齢にしては高い身長、
そしてぎこちないあの動き。
奏太がいるんだ。
「鳴さん?」
「ちょっとどいて樹」
あの1年と入れ替わるように奏太に近付いていく。
奏太だ。
会いたかった。
話がしたかった。
謝りたかった。
奏太だ、奏太がいるんだ、
「奏太!!!」
俺の声に前みたいに笑ってくれるだろうか。