海常対青道の試合は圧倒的な差を付けて海常の勝利になろうとしている。
まぁ、青道はどの部も力を入れてるけど、IH常連校の海常からしたら青道はまだまだの中堅校だろう。
野球部行くかなあ。
ついでに作った差し入れも渡したいし。
▼▼▼
「ねえ、栄純君」
「な、なんだ春っち!」
きょろきょろと周りを見渡す栄純君を疑問に思い話しかける。
僕が呼びかけても返事は返ってくるけど、視線は一向に他方に向いている。
「誰か探してるの?」
「そうそうあいつが来るって言ってたんだけ………来ない!来ないからな!」
いや来るんでしょ。
栄純君はある日、体操着を忘れたからって誰かから借りたダボダボの借り物体操着を着てきた日からおかしくなった。
いや、おかしくはない。ただそれまでは野球部メンバーで固まってたのに、いつのまにか栄純君が席を外すことが多くなったのだ。
そして外して帰ってきた日には爪が綺麗に整えられてる。
名前は聞いても教えてくれなかった。
金丸君情報では降谷君よりも背が高いらしい。
僕も遠目から見たことがある。
大体クラスにいて、席に座って本を読んでるか誰かに話しかけられている。
それを女の子が顔を赤らめながら眺めてヒソヒソ話してるんだ。
髪の根元が何故か金髪の黒髪で、顔はすごく綺麗な顔をしてる。
「仲の良い友達がくるの?」
問いかけると、栄純君は困ったように、でも嬉しそうに笑った。
「…昼からくるって言ってたんだけど…あいつの事だから早く来てそうで探してるんだ」
「僕も会ってみたいな」
「…なんで?」
「結構有名だし、栄純君その友達に会いに行った日の部活は何か試してるでしょ?気になるんだ」
栄純君は気付いてないだけで、もしかしたら野球経験者かもしれない。
ちょっと話してみたいじゃないか。
「うーん…しょうがねえな!!春っちだけだからな!他の奴らには内緒だぞ!」
「え?いいの?」
「いいぞ!」
案外簡単に会わせてくれるらしくて、吃驚する。あんなに紹介してくれなかったのに?でも詳しく聞いたら栄純君の気が変わりそうだ。
「ありがとう栄純君。楽しみに──「おい、おまえ!」
「うわ!出たよ白頭!!!」
「はぁ?なにその口の利き方!俺先輩!それよりあんた1年でしょ?君も!」
「え?…1年ですけど…」
稲実の成宮さんを睨みつける栄純君はさっき何か一悶着があったらしい。
栄純君はどこにいても元気だね…。
「1年の野球部にさ!黄瀬っていう名字の子いない!?金髪の!」
黄瀬…?どっかで聞いたこと…
「黄瀬ぇ?女子が騒いでるモデルの黄瀬ですか?そもそもうちには黄瀬なんていないッスよ」
「…いや、その黄瀬じゃないけど…ほんとに黄瀬って名字の人いない?」
「いないです」
途端、苦虫を噛み潰したような顔をした成宮さん。
黄瀬……確かにその名前の人はいないけど、女子がよく騒いでる栄純君と仲が良いあの人は確か黄瀬って呼ばれてて…でも黄瀬って苗字は青道にはいない…
「栄純君、今日来る噂の友だちの名前ってなんだっけ」
「なんでだよ?黄瀬じゃねえぞ、蜂木奏太っていう……」
「「それッ!!!!!」」
え!!?あの蜂木奏太!!?
「やっぱいるんだ……奏太…ッ」
成宮さんは納得したのか、それとも何かあったのか顔を曇らせて稲実ベンチに戻る。
それより…
「え…栄純君……君すごい人と友達だよ…」
「は?なんで?」
君の友達蜂木奏太は、野球の神様に愛された天才球児なんだから。
▼補足
・シニア界では「黄瀬」「蜂木」両方の名字が浸透しているが、一躍有名だったのが中学時代なので名字が変わった後の「蜂木」の方が知れ渡っている。
・有名だったのにも関わらず青道で気付かれなかったのは、
→女の子に人気な「黄瀬涼太」に似ているという噂の方が「蜂木」より勝った。
→野球やっていた時は金髪の時が多かったため、黒髪の今は気付かれ難い
という理由でです。亮さんが気付いたのは名前を聞いたため。