「ハァ?それで名字違うのか!?」
「そうッスよ〜」
「めんどくさくなる前に、逃げたんです」
母方の祖母が子供が(手元に)欲しいとか言い出して勿論両親は反対した。
言い合いは治らなくて、涼太は泣き始める始末。だから俺はいいやーって、自分から祖母の家に行った。
幸い、家は離れている訳じゃなかったから、我儘言って中学は一緒。野球もあの時は続けさせてもらってた。
「話聞く限りじゃ…えっと蜂木から言ったんだろ?」
「はい」
「しかもそれは中学上がる前の話。お前すげえな」
冷めてるっつーか、その時から大人っぽいっていうか、と俺にかける言葉を探す小堀さん。
でも祖母の家がすごく離れてたら俺も流石に迷った。
野球もチーム変わるし…、……涼太と離れるのも嫌だったし。
「あ、ここですよ青道。バスケですよね、体育館まで案内します」
「ありがとな、それにしても案内を門に置いとかないとかどうなってんだ」
「きっと準備まだ終わってないんスよ〜」
「黄瀬が遅れたけど、地図使わなかったし、なんか近道通ってくれたんだよな?予定よりかなり早かった気がする」
「あー、ちょっと細い道通りましたね、そっちのほうが近いし」
「だとよ笠松。
黄瀬は弟に感謝しろよ。そして俺に女の子を紹介してくれ!」
「つか弟の方が兄っぽい」
「黄瀬が兄ちゃんとか…フッ」
「生まれる時に要素全部置いてきたんだな」
「センパイ達ひどいッスよ〜!俺ちゃんと兄らしいことするし!」
うわああん、なんて泣き真似をする涼太を冷めた目で見つめる。
大体このやり取りは毎回する。俺もなんか自分が兄な気がしてきた。
「あ、バスケ部来たみたいですよ。俺上に上がってるんで」
青道のバスケ部のジャージを来てこっちに向かって走ってくる生徒。
なんか見たことあるような顔だからたぶん1年生だろう。まぁ、後輩がパシられる……任されるよな。
「奏太見ててね!俺の勇姿!!」
「はいはい…あ、ほらこれ持ってけよ」
家から遥々持ってきた手提げの袋を渡す。
「重っ!」
「差し入れ。スポーツドリンクも入ってるから使えよ。氷も入れといた」
手提げを覗き込む涼太を不思議に思ったのか、先輩方も群がってくる。
「すげえな、助かる」
「こ(れ)はちみつ(レ)モン!!?」
「うお!マジか!マネージャーいないからこういうの有難いわ」
「出来た弟だな、後輩に欲しい」
「俺がいるッスよ!」
涼太から手提げを奪い、スタスタと体育館の更衣室に向かっていく先輩。
涼太は完全にスルーだ。
「あー!もうひどいッス!」
「バスケ部でどんな生活してるのかは把握したよ」
「そんなの把握しないで!!」
でも上手くやってるようで安心した。
少し捻くれてるし、自分のことをよく分かってるからちゃんとやっていけるか心配だったけど、楽しそうだ。
「涼太」
「なにっ!」
「頑張れ」
拗ねた表情をしていたのに一気に明るくなる表情に笑いが込み上げる。
変わったんだろ、
もう、あんな辛い顔でバスケしないんだろ、
「うん、見てて!」
少し、
少しだけど、
楽しそうにスポーツする涼太が羨ましかった。