「ほら!早くしろ!走れ」
「え〜〜待ってよ〜」
「お前現役だろ!?俺は別に部外者だから遅れてもいいけど、お前先輩待たせてんだろ!!遅刻とかありえねえから!」
駅までの道程を走る。走るっていっても軽くだけど。そんな涼太はまったく急ぐ気配がない。
あーーーなんか走るのが馬鹿らしくなってきた。
「…海常のバスケ部厳しいんじゃないの」
涼太に呆れながら呟く。
「…厳しいッスよ。やっと上下関係教えられた感じッス」
そりゃあそうだろうなあ。
帝光の時はキセキがスタメン総締め。
他にレギュラーがいても滅多に変わることはない。先輩らしい人といえば、えーっと…にじ、虹村先輩、その人ぐらいだ。
「俺はもう帝光の黄瀬涼太じゃなくて、海常の黄瀬涼太なんだって。なんかイイッスよね、これ」
口角を上げて目を細めながら笑う涼太はとても楽しそうだった。
「だからそう言ってくれたセンパイに奏太のこと紹介出来るの嬉しいんスよ」
「…そ」
まぁ、そんな先輩に俺は初対面から怒られそうなんだけどな。
「おい、今何時だと思ってんだ」
「…待ち合わせ時間から…10分過ぎの7時41分ッス」
「開き直るんじゃねえよ、シバくぞ」
「イッ!しばいてるじゃないスか!もう!」
集合場所に着いたのは集合時間の約10分後。
結局シバかれてんじゃん。
うわあ、涼太大変そう。そういえばスポーツってこんな感じだったわ…。
「うるせえ!!…で、そいつがお前の言ってた弟か?」
「あっ、はい。蜂木奏太です。いつも兄がお世話になってます」
「「「「…………」」」」
え、なにこの沈黙。
「似てねえな」
「え、でもどっか似てないか?」
「どこッスか?」
海常の先輩方の視線が一気に向く。
「奏太、鼻と口隠してよ」
「ん」
涼太と同時に、言われた場所を隠すと先輩方は「ハッ!!!」っと言って指をさした。
「うわ…この憎たらしい睫毛の長さ」
「黄瀬の方が吊り目なんだな」
「…そこか?」
確かに俺と涼太じゃ、涼太の方が吊り目だ。若干俺は垂れ目より。
「目隠して」
「おう」
鼻と口を隠してた手のひらをそのまま目にずらすと
「うわ!!!」
「そっくり!!!」
「黄瀬が2人いるぞ!!うわ!!」
まあ俺も一応"黄瀬"なんでね…。
いつも2人で誰かに会うと似てねえなと言われる。でも一応双子なワケで。目のパーツが少し違くて似てねえなって言われる。ただし目を隠すと口と鼻はあらびっくり…すごいそっくりなのだ。
「あ(れ)!でもさっき黄瀬と名字違くなかったか!!!?」
え?最初なんて言った?
「早川センパイは落ち着きがないんでラ行の呂律が回んないんス」
「お前も落ち着きがねえよ」
「ヒドッ」
涼太は人のこと言えないよ、うん。
その名字が違うのに突っ込んだ早川さんはもう一人の先輩に叩かれてる。
別に突っ込んでもいいのに。
「名字が違うのはーあれですよ、複雑な事情ってか…」
「どっちかっていうとくだらない事情ッス」
集まるメンバーは涼太で最後だったらしく、青道高校へ地図を見ながら移動していく。
「あの、俺青道まで案内しますよ」
「んぁ?いいのか?てか道わかんのか?」
「俺青道に通ってるんで大丈夫です」
ありがとな、というたぶん主将さんは面倒見が良さそう。
涼太が懐く理由もわかるわ。
「名字のこと言っていい?」
「別にいいけど」
あんなくだらない話でいいなら。
主将さんもそんな深刻そうな顔しないでほしい。ほんと離婚問題とかじゃないからさ。