「奏太ー!!!キャッチボール!!!」
「おーーう」
今日は河川敷で轟親子と簡単な野球をする日。
轟親子は部活があるからと、やり始めるのは真っ暗になった月明かりの下だ。
「ん?」
「奏太ーー?」
「ちょっと待って電話だ」
尻ポケットで震えた携帯を取り、画面で誰かと確認すれば度々見る"黄瀬涼太"という文字。
「雷蔵さん!先にキャッチボールしててください!ちょっと長電話になる!」
「おーう、わかった」
一言断りを入れて電話に出ると
《もー、奏太!!電話出るの遅いッス!》
数ヶ月前までは度々聞いてた声が流れてくる。相変わらず元気だなあ。
「ごめんって、要件はなーに」
《要件って、俺メールしたじゃん!試合!観に来てくれるでしょ!?拒否権はないッスよ!》
メール…?
うん、確かにメールは入ってた。昨日の夜に「17日に青道で練習試合やるからきて!」っていかにも星が飛んでそうなメールが。
でも俺返信した気がしたんだけど…。
「俺返信しなかった?」
《してない!してないッス!》
マジか。これは自己完結したパターンだ。
「あー、その日行くよ。同じ日に丁度学校行くことになったし」
《それって俺ついでってこと!?》
「なんか涼太めんどくさくなったな」
《え!?だって!俺変わったんスよ!それを見て欲しくて!》
「だからめんどくさくなったって?……涼太の方が本命だから大丈夫。試合は午前だけだろ?」
《午後はまた海常に戻って練習ッス…》
「ん、午前観に行くから頑張って」
《絶対ッスよ!?絶対!!!あとなんか作ってきて!!》
うわ、めんどくさ!って思ったのは心に秘める。
日頃海常の先輩に涼太がお世話になってるし、なんか差し入れ持ってくか。
ついでに栄純の方にも…って人数ハンパねえよな、どうしよ…。
《じゃあね!?約束ね!?あ!俺朝は奏太迎えに行く!青道最寄り集合だから寄ってくッス!》
「え、別にいいんだけど」
《奏太がいたら先輩俺に蹴りとかいれないから俺が得するの!時間は7時半!寝坊しないでね!》
「わかったよ…涼太の方こそ寝坊すんなよ」
《一応モデルやってるッス!…今は活動控えてるけど…だから時間には厳しいッスよ!じゃあね!おやすみ!》
ブチっと一方的に切られた画面を見ると通話時間が意外と短かった。
あれ、なんかドッと疲れたんだけど…!
それにしてもあれだなぁ、苗字違えど兄弟でしかも双子なんだから「ッス」なんて付けられると他人行儀でなんか悲しい。
まぁ、普段友達と話すよりは少ないんだろうけど…。
「奏太ー!終わったかー!?」
「終わったー!ちょっと待ってー!」
「カハハッ!早く!キャッチボール!」
轟親子の元へ向かえば今度は三角形になってキャッチボールをする。
普通のキャッチボールと違うのは。投げる場所を正面と決めてない所。取れるか取れないかの範囲に投げてキャッチ出来るかっていう練習だ。
でもコントロール力も必要なので雷蔵さんに投げる時はちゃんと投げる。
「そういえば聞いてくれよ」
「ん?なんすか?」
雷蔵さんの言葉に耳を向ける。
「雷市なー、部活の奴らから、前よりコントロール力が付いたとか、捕球出来るようになったとか褒められたんだよな」
ニヤッと笑う雷蔵さんとそれを聞いて真っ赤になる雷市。
それを言っちゃうところがあんた親バカだよな。
「よかったなー雷市。結果出ると俺も嬉しい」
「ほ、ほんとか!?」
「うん、ほんとほんと」
なんだろこの、同い年だけど弟が出来た感じ。
涼太は一応兄だし、弟ほしかった。かわいい。
「大会とか試合があったら呼んでくださいねー、俺応援行きますから」
「あー、そうだな。お前野球部じゃねえからな…」
うーんと考えた雷蔵さんに俺は笑ってしまう。
「いつかまたチームに入れたらいいって思ってますよ」
それは叶わないことかもしれないけど。
「…あーー、お前ここらへんに住んでんならもれなく高校は東京だろ。
もし俺たちのチームと当たってもこっち応援しろよな〜」
ニヤァと笑う雷蔵さんは性格が悪い。
そういえば高校どこだっけ、
「薬師だよ、薬師」
薬師…あんま聞いたことねえな。
でも雷市がいるから今年はダークホースになるかも…?
つかもしかしたら青道と地区一緒か?
「まぁ、当たることになったら…俺はほんとにただの両チームの観戦者でいさせてもらいますよ、そもそも薬師がどんなチームかわかんねえし」
「それは薬師が面白えチームだったら応援するってことか?」
「そうっすね」
でも俺は野球は出来ないけど、一応行くならここがいいって思って青道にきたんだ。
青道より面白いチームなんて早々ない。
まぁ、こんなこと言ってまったく関わってないんだけどさ!
「ふーん…」
「奏太高校どこだっけ?」
ふと聞かれた雷市の質問。
俺は笑って答える。
「青道高校だよ」