挑戦的宣言

優越感




「あ、あった。これですどうぞ」

理科系の本がまとまってる場所にたどり着くと端っこにある分厚いとも薄いとも言えない本を取る。
中身をパラパラと確認する。大丈夫、あってる。


「ここにある本全部把握してんの?」

先輩は中身を見て分野を確認する。


「それ全部が簡潔にまとまってるんで大丈夫だと思います。細かいことならこっち、教科書の端っこに載ってるけど大事な言葉が集まった参考書です。

俺1年ですよ?しかもまだ入学して半年も経ってない。把握してるわけないじゃないですか」


置いてある本はザッと見たぐらいだ。それで面白そうなのから読んでるだけ。

「そうなの…ありがとう。これ借りてく」

「はい、名前教えてください」

「小湊亮介」

「小湊先輩ですね、か行…あった、返却期限は一週間後です」


最近の技術はすごいよな、バーコードでピッてやって本が借りられんだから。

「君の名前は?」

本を渡す時に聞かれる。

「え?」

「どっかで見たことあるの、なんだっけな…。俺のこと覚えてない?」


まさか…という考えが過るが、こんな珍しい髪色の先輩がいたら忘れることはないはず。
いや、でも…キャップ被るし…


「会ったことないと思います…」

「じゃあ、名前。名前教えてよ」


もしこの人が野球関係者だったら…
でも栄純みたいなケースもあるし…、いやこの人の性格からしたら知られてても害はないはず…

「……奏太です」

「奏太……苗字は?」

「……蜂木奏太」

先輩の目がピクッと動く。開きはしないけど。


「……やっぱ会ったことあるよ。今度またゆっくりお話しようね」


何か含みのある笑みで去っていく先輩。



「どこのチームだろ」











▼▼▼


「蜂木奏太…」


思わぬ遭遇だった。

今まで何回か図書室に通ったことがあった。放課後のほんの少しに出来た空き時間に行くとだいたいあの男がいる。

俺が図書室に入っても視線もあげないで、図書委員専用のイスに座って係りの時間が終わるとさっさと帰る奴。


初めて見たときから確信してた。
あいつは天才球児、蜂木奏太だって。
あの目、あの髪色、あの手。何もかも覚えてる。

一度だけあいつと戦ったことがあった。
俺は天才じゃなくただの凡人だから全部の球が打てるわけじゃない。
でも守備にも攻撃にも自信があった。打席に入ったら三振は多くない、打率も高い方だった。


でもあいつの球は打てなかった。
俺は凡人なんだから三振だってある。あるんだけど、あいつのことは忘れられなかった。


打席に立ったときに見たあの少し青みかかった瞳。それに惹きつけられた。



どうしよう。
これは誰かに報告したほうがいいのか。

いや


「……もうちょっとだけ」


秘密にしよう。今は、少しの間は独占させていただこう。

明日も何かの口実に見にいこうか、そしてきっと忘れられてる俺の事を今度こそは記憶に刻みつけてやろう。






俺だけが見つけた優越感に少しの間だけ浸らしてもらおう。



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