挑戦的宣言

蜂木奏太という男



雷市との日課で定期的に来る河川敷。
いつものように橋の下でバットを振らせようと思っていた時、今日は先客がいた。

たまにちっこいガキがいたりするのは見たことあったが、背がでかくて1人でピッチング練習をしてるガキは見たことがなかった。

近くに見に行ってもそいつは気づく様子がなく、必死にピッチングを続ける。
そのピッチングの球は豪速球で見ててもわかるぐらいに重い。壁に当たるとかなりの勢いで返ってくるが難なくそれを拾い同じ動作を続ける。

球の当たる場所はほぼ一定で壁を見ると球が当たりまくっているだろう場所にはコンクリが削れてボロくなっていた。


おいおい、どんだけ投げてんだよ。
コントロール力も、スピードも、球質も、何もかも化物じゃねえか。

興味を持った俺はそいつに背後から近づき、肩に手を置いた。

案の定そいつは驚き暴投をする。それでもスピードは洒落になんねえな。


「……誰すか」

眉間に皺を寄せて睨むその顔はどこかで見たことがありモヤモヤが胸に残る。

そいつと会話をするとまぁ、知らないジジイに話しかけられたら当たり前だと思うが警戒心がバリバリだった。

なんとかこいつの情報を聞き出そうと無理矢理キャッチボールを持ちかける。

嫌な顔をされたが渋々やってくれるようだ。

要求して投げられたボールは鈍い音を立ててグラブに収まる。
実際に取ると全然ちげえな…こんなん続けられたら慣れてねえと手が痺れるわ。


「名前は」

手始めに名前を聞くと警戒心バリバリで断られた。せめて歳を…と思い、歳を聞くと返ってきた答えは「15」
は!?18とか大学生かと思ったわ!中3はあり得ねえから高1…?この身長で雷市と同じかよ…


ついでに高校を聞くとやっぱり教えてくれない。

そして驚くことに野球は今やってないらしい。部活もチームも入ってねえってことだろ?これって勧誘したらかなり薬師に得になんじゃね?

下心を込めとりあえず雷市と仲良くなってもらおうと雷市も輪に入れる。

雷市が人見知り全開で自分の名前を言うとこの男は名前を言った。


「………蜂木奏太」

おいおいおい、俺には教えてくれなかったのに雷市には教えんのか。まぁ、俺もまだ名乗ってねえけど。

………って


「ハ!!?」

「…なんだよ」

「蜂木奏太って、あの蜂木奏太か!?」



蜂木奏太。
野球をしてる人なら大体の人が知っているだろう天才球児。

2〜3年前、こいつがいたシニア界は大いに盛り上がった。もともとは外野手だったこいつは3年前から少しずつマウンドに上がる回数が多くなった。

こいつのいたチームは毎年大会では良いところに進むが、後一歩というところで賞には届かないというチームだった。
だが名は知れているチーム。いきなり外野手だった選手を投手に起用するとはどういう魂胆かと一時期は噂になった。

その噂が消えかかった頃。いつもは中盤だけに登板していたこいつは、一回目からマウンドに上がった。

マウンドに上がったこいつはニヒルに笑い、


相手チームのピッチャーとまったく同じフォーム、同じ球質で球を投げた。

静まる相手チーム。笑うピッチャー。



その後も同じように"真似"をして投げたが、相手チームは一向に打てない。

自分のチームのピッチャーなんだ。いつもの練習ではそれを打ってるんだろう、じゃあなんで打てないんだよ。その場にいた全員がそう思っただろう。

だがその球はただの真似事じゃなかった。相手ピッチャーの球をそっくりそのまま真似をするだけではなく、倍にして返す。相手チームの動揺は止まらなかった。

打者はまだいい、だが投手の焦り具合は尋常じゃなかった。
相手チームが守備になると投手は駄々崩れ。ボール、暴投、死球が止まらない。

ピッチャーが交代されても交代したピッチャーも同じような姿になった。

その大会は蜂木奏太がいたチームが優勝。全ての試合点差は歴然でコールド勝ちで優勝したチーム。

この衝撃を与えた大会は忘れられることはなかった。


蜂木奏太が出た大会は全て優勝。

蜂木奏太の名前はシニア界だけじゃなく、プロ野球の間でも話題になったと言われた。

だが1年前の大会。蜂木奏太は突然消えた。


その蜂木奏太が目の前にいる?


天才球児が?


「ハッ…ガハハッ!」



なんで消えたかはわからねえ。
でも蜂木奏太という天才球児が今目の前にいることは変わらない。









これは利用するしかない。


「なぁ、雷市にキャッチボール教えてやってくれよ」



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