挑戦的宣言

キャッチボール


放課後、俺はいつも行く場所には寄らないで定期的に来る橋の下に来た。

家に一回帰って手にはグローブと野球ボール。

「投げちゃダメなんて言われてねえし」


もうあの上では投げられないかもしれない。でも誰も投げちゃいけないなんて言ってない。俺は懲りずに壁に向かってボールを投げる。

ここにはもう何回来たかわからない。でも、この場所に来て投げるのは妙に落ち着く。


「ーーッ」


大丈夫、まだ投げれるまだ肩は動く。


「大丈夫…大丈夫、」


集中してたからだろうか。自分の背後に人がいるなんて思わなくて、肩に手を置かれた瞬間暴投をした。


「おーおー、良い球投げんなァお前」

「………誰すか」


顎に手を当て少しニヤけた顔でセリフを言ったこの30代過ぎだろうオッさん。

「金の匂いがプンプンするぜ」

「……金持ってないっすよ」


カツアゲかよ、めんどくさ
どっか行ってくんないかな


「そういう意味じゃないって」

「…それでも失礼でしょ」

「年上にその態度も失礼だろ」


そのオッさんはさっき俺が暴投した球を拾って俺に返球する。重いな…野球やってんのか…?


「ちょっとお兄さんとキャッチボールしようぜ」

「オッさんの間違いだろ」



そのオッさんは後ろに振り向いて「雷市!グローブ貸せ」と言った。
雷市って誰だと思いながらそのオッさんの視線の先を見ると野球ウェアを着た頬に傷を作った男がいた。

そいつは無言でグローブをオッさんに投げ渡し、また橋の影に隠れる。顔だけ覗かせて。


「ほらボール」

オッさんのグローブに向かって軽めにボールを投げる。


「重い球持ってんなァ、本気で投げるとさっきのスピードが出んのか」

球が返球され左手のグローブに音を立てて収まる。

「名前は」

「知らない人には名前教えんなって言われてる」

「……年は」

「15」

「若えな!高1か?」

「あぁ」

「雷市と同い年じゃねえか、身長分けてやってくれよ」


キャッチボールしながらも続く謎の一問一答。
雷市ってさっきの?

「高校は」

「ノーコメント」

「信用ねえなァ」

「さっき会ったばかりだろ」

「野球は今もやってんのか」

「やってない」

「…やってないのか?」


あり得ない、なんて顔をしてくるオッさん。別にやってなくたっていいだろ、理由があんだよ。


「ふーーん、オラ、雷市!お前も混ざれ!」

「!?」

「こいつは俺の息子だ」


橋の影から出てこない"雷市"という男を引っ張り俺の前に立たせる。
目つき悪いのになんだこの……溢れ出る人見知りオーラ。

自分の名前を言わない息子に懲りたのか、オッさんは男に蹴りを入れる。

男はキッとオッさんを睨みつけて、恥ずかしそうに

「とっ、…轟…雷市…デス」


と自己紹介をした。


「……蜂木奏太」

「ハ!?」

「…なんだよ」

「蜂木奏太って、あの蜂木奏太か!?」

「どの蜂木奏太か知らないけど俺の名前は蜂木奏太。…えっとよろしくな、轟」

「蜂木奏太ってシニア界を騒がせた消えた球児だろ!?」

なんだそれ、消えた球児って。
その事が俺のことだったらすげえ恥ずかしいんだけど。言い出したやつ誰だよ。

「はぁ〜〜さっきの球の意味もわかるわ、これはバケモノ捕まえた!
お前部活入ってねえんだろ?雷市にキャッチボール教えてやってくれよ。ついでに俺も轟だから雷市の事は名前で呼んでやってくれ」

「ハァ!?なんでだよ、意味わかんねえ!」

なんで俺が出会って1時間も、30分も経ってないやつにキャッチボール教えなきゃなんねえの!?

「おいおいそんな拒否んなよ雷市くん泣いちゃうぞ〜〜」

意味わかんねえ、と思いながら俺は自分より身長が低いその雷市くんとやらを見ると顔を真っ赤にさせ瞳を潤ませていた。

「ハ!?え!?」

「な?キャッチボール教えてくれるだろ?」



俺はその場に居た堪れずに条件付きだかんな!?と叫んだ。






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