泉さんと遅刻


「やばいっ、急がなきゃ!」


泉 友加梨、只今とっても焦ってます。
何故なら、そう。


「もう時間がないー!」


遅刻がほとんど決定している状況なんです。

階段をばたばたと転げ落ちそうな勢いで駆け降りれば、
朝することはもう済ませたのだろう、
食卓に腰かけテレビを見る母の姿が目に入った。


「な、何で起こしてくれなかったの!?」
「何回も起こしたわよ、あんたが起きなかったんじゃない。」
「起きるまで起こしてよ〜!」

朝から文句が多い子ね、なんて母の言葉を右から左へと受け流しつつ
用意をする手は忙しなく動いたまま。なんたって大ピンチ。
朝ご飯は何も塗ってないトーストに決まりだし、寝癖も今日ばかりは仕方がない。


「いってきまーす!」


家族(と言っても既に食卓には母の姿しか無かったが)の返事も待たずに走る、走る。
学校までの距離はそんなに遠くはないからいつも徒歩で通学しているんだけれど、
今は徒歩約12分なその距離が憎い。入学一週間も経たないのに遅刻なんて…!

こう見えても足の速さにはそれなりの自信があるのだが、
トーストを加えた寝起きの今、速度なんてそれほど出るはずがなかった。

――チャリンチャリン、

ふと、自転車の鈴が鳴るのが聞こえる。
それも、音は段々と此方に近づいてきているような。
気になったうちは、急いでいるのも忘れて足を止め、振り返った。


「ちょ、そこの女子!避けろ!」
「ええっ!?」


なんと、ありえない速度の自転車がうちの方へ向ってきているではないか。
乗っているのは声からして女の子みたい…ってそんなこと考えてる暇はない。
うちはギリギリの所で慌てて飛びのけば、幸い掠ることもなく自転車が通るのが見えた。
あ、今トースト落とすとこだった、危ない危ない。

とてもそれが自転車によるものだとは思えない強風が吹いた後、
先程の、たぶん、女子生徒の声がする。


「ごめんごめん、急いでてさー!」


なんとも謝る気の感じない軽い調子でそう告げた彼女は、
それだけ言い残せば此方へ少しだけ向けていた顔を正面へと戻しまた物凄い速さで自転車を漕いでいた。

そもそも、自転車ってあんなにスピード出る乗り物だったっけ…?


「もう、なんなのあの子ー。」


誰に話しかけるでもなく、ため息とともに言葉が漏れる。

そうして茫然と立ち尽くすうちの耳に、ここ一週間ですっかり聞き慣れた音が飛び込んでくる。
ああ、何の音だっけこれ。そうだ、学校のチャイムだ…そうそう、って…。


「うわああああ!結局遅刻じゃんかああ!!」


…短髪の女の子、許すまじ…!

もう何だか走る気もなくなってゆっくりとトーストを食べ終え学校に向かえば、
1限目が始まる直前で、ながーい担任のお説教をくらうはめになりました…。











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