忍足くんと相棒

どうも泉の奴は遅刻らしい。

というのも、全て俺の予測であって、
担任は欠席の連絡も遅刻の連絡もないのだと言っていた。

しかしあいつの事や。
アホは風邪はひかんと言うし、何より遅刻してきそうな奴や。

と、現代文の教科書を借りに来た岳人に、俺はそんな話をした。


「侑士ってたまに言う事ひでぇよな。」
「んな事あらへんやろ、正直に言うただけや。」
「ほら、そういうとこだっての。」


呆れたように言う岳人に渾身のデコピンをくらわせてやれば
なかなかにオーバーなリアクションで返される。
いつまで経っても何処か子供なままの岳人になんや笑えた。

…いや、笑うてへんのやけども。


「でもでもお前、最近その泉って奴の話良くするよなー。」


窓の縁に手をかけ、岳人はそう言った。
ダブルスパートナーでもあり、やはり話す機会の多い岳人に言われたのだ、きっとそうなのだろうが、なんせ俺にはその自覚がない。

そんな結論に至り、そうだったかと疑問を投げかければ、寧ろその話題ばっかりじゃねえの、と返される。頭の後ろで手を組んだ岳人は、呆然とする俺の前で大きな欠伸をする。


「なんつうかさ、お前そいつの事好きなんじゃねー?」
「………は、」


まず、それは無いやろ。

理想と言うほど女性に対する絶対条件、なんてもんは無いけど、
それでも最低限女性らしい性格ではあってほしい。
まあ、男勝りな奴だというわけではないけど、あいつの場合は子供っぽいのほうがしっくりくる。

俺の返答にふーん、とそっけなく返したあと、
ちらりと俺の手首あたりを覗き込む。
どうやら時間を確認しているらしいそいつへ文字盤を向ければ、確認し終えたのかぱっと顔をあげた。

「もう1限始まるしよ、案外体調崩してるかもしれねぇな、そいつ。」

続いて腕時計を確認すれば、岳人の言うようにもう3分前を指していて。
これは本当に、体調不良かもしれない。

…そう考えた途端、慌ただしい音が廊下へ響き渡る。

岳人がもたれ掛かる窓枠から廊下の様子をうかがおうとすれば、そいつは姿を現した。


「お、お…?もしかしてこれ間に合った的な…?」


解答を求めているのだろう。どこから湧いてくるのか疑問でしかない自信たっぷりの顔で此方に視線をやるそいつ――泉に軽く拳を落としてやれば、不満げに見上げる姿に言ってやるのだった。


「余裕で遅刻や、あほ。」


1限の始まりを告げるチャイムが鳴って岳人を見送った後に席へと戻れば、隣りに掛けるアホの姿にどこか安心感を覚えた。












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