折琴さんと眠り姫

春菜が宍戸と買い出しに出ている間、
私は無駄に広い中庭へと来ていた。

…先に言っておくけれど、私は断じてサボっているわけではない。

それもこれも、跡部の指示によるものだ。




「おい、愛実。…仕事はちゃんとやってる様だな。」


みんなが練習に励む中、
マネージャーが1人となったためにいつもより忙しいこの場に奴はやってきた。

…見直したとは言え、やはり癪に障る顔をして。


「何よ、練習抜けて来て何事かと思ったら…。そんなこと言いに来たわけ?」
「お前は…相変わらず可愛げのねぇ女だな…」
「それで結構よ。…で、本題は?」


冷たくあしらえば、相手はやはりというべきか、
苛立った表情を浮かべては舌を鳴らす。


「…まあ良い。ジローを探してきてくれ。」
「はぁ?誰よ、それ。」
「“芥川 慈郎”だ。天然パーマで部活指定のジャージだから見ればわかる。」


見ればわかる、って……。
ほんっと勝手にも程があるわよ…。



そんな訳で、現在に至る。

あいつの話によれば、その芥川慈郎とやらは、
中学時代から居眠りをして練習に参加しないことが多かったらしく、
注意されるたび中庭へと逃げ込んでいたそう。

なんというか…呆れた奴ね。

当然私は人探しのためにマネージャーになったわけではないのでいい気はしない。
でも、そんな仕事をマネージャーに任せるのなら、
芥川という男もそれに見合う人間という事なのだろう。
…というか、でなければ私の気はおさまらない。


「にしても、…芥川って奴、見当たらないわね…」


――ドスン!


「な、何!?」


途端、何か大きな物が地面へと落下したような音がする。
…近くの茂みからかしら。
私はゆっくりと足を進めた。その先に居たのは……、


天然パーマの男子生徒、だった。


「な、もしかしてこいつが芥川慈郎…!?」
「ん…む、うるさい、C−…」


ぱちり。

瞳を開けたそいつと、しゃがんで覗き込んでいた私の目が合う。
不思議そうな顔をした彼は、むくりと眠たそうな目のまま起き上がった。


「きみ、だあれ?」


きみ、というのは私の事だろう。
寝ぼけた表情がじっと此方へむいていた。


「…折琴、愛実よ。男子テニス部のマネージャー。」
「マネージャー?…あー、昨日跡部が言ってたC−。」


それなら話が早い、と私は立ち上がった。
…正しくは立ち上がろうと、した。

不意に手をひかれ、私の体は温もりの中にいて。


「ちょ、っと!まだ練習中なんだけど…!」
「ん、もうちょっとだけ…お願い、愛実。」


引き剥がそうという気は不思議と起こらずに、
けれど説得しようと芥川のほうへと顔を向ける。


「寝てる…。」


それはもう、ぐっすりと眠る相手に、何だか色々と考えるのも面倒になる。
ああ、ドリンク、まだ作りかけなのに……。

そんな考えを余所に私の膝へ頭を休ませる芥川を見て、
私も木へ体を預けると、ゆっくりと目を閉じたのだった。


…心配した跡部が私たちを見つけるまであと………、



はじめまして、新世界
(僕の知らなかった君たちへ)
(はじめての音を奏でて)










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