佐倉さんと買い出し 入学式の日、あれからわたしと愛実はテニス部のマネージャーとして、仮入部することになった。 仮入部期間を経て、わたしたちが最終決定を下すのだそう。 仮入部とは言え、しっかり頑張らないとね! そしてわたしは現在、跡部くんに買いだしを頼まれて付近のスポーツショップまで来ている。 驚くことに氷帝学園テニス部には、中等部も含めマネージャーが居ないようで、 こうして仮入部の期間もちゃんとした仕事が割り振られている。 余談ではあるけれど、跡部くんは入学式の日、 レギュラーであった先輩方に試合で勝ち、一年にして部長となった。 がっくんによると中等部でもそうして部長を務めていたらしく、跡部景吾という青年の凄さを知った。 そんな彼の話では、新学期が始まったばかりのため、 スポーツドリンクの粉やバランス栄養食などのストックがないそうで。 200を超える部員数を誇る部活、やはり荷物は多くなるわけで、 部員の一人をつけてくれることになった。宍戸亮くんだ。 いかにもスポーツマン、といった容姿の彼は練習を抜けることに不満げではあったものの、 跡部君以外の1年生はまだ筋トレや素振りばかりの為か渋々承諾していた。 「…ごめんね、宍戸くん。マネージャーの仕事なのに、つき合わせちゃって。」 無言のまま入店したところで、わたしは口を開いた。 すると振り向いた宍戸くんは何だかとても難しい顔をしていて、思わず身構えてしまう。 けれど次の瞬間、言い難そうに頭を掻いた彼に怒ってはいないのだと安堵した。 「…悪い。跡部にあんな言い方してたし、そりゃ気ぃ遣わせるよな」 予想外の返答に、わたしはぽかんとするばかり。 「その、そういうつもりじゃ、」 「レギュラーに入るまでは1年がマネージャー同様の仕事すんのが当たり前だし、 ああやって体動かせてるだけ恵まれてるしさ、お前らには感謝してるぜ。」 お前ら、とは愛実も含めて言ったのだろう。 正直マネージャー業なんて始めてで、役に立てるか不安でいっぱいだったけど、 そんな風に思ってくれてたなんて嬉しくて仕方ない。 そんな気持ちが顔にも現れていたのか、なんか嬉しそうだな?なんて笑われてしまった。図星だっただけに少し恥ずかしい。 「来週は部内で試合組むらしいな。」 「うん。そこで新チームが完成するんだって、跡部くん言ってた。」 そうか、と宍戸くんは小さく相槌を打った。 昨日の練習後に少しだけその話はあったけれど、 ここまで知っているのは勘なのか、噂からなのか。 けれど、ひとつ分かったのは、 宍戸くんがほんとにレギュラーを狙っていること。 というのも、この話に入って、宍戸くんの目に何かが宿るのが見えたからだ。 「わたし、応援してるね?」 「馬鹿、マネージャーが1人の応援してどうすんだよ。」 あ、そうだった…。 笑いながらそう言われて、やっと気づく。 でも、それじゃあ、わたしはどう力になればいいのか。 「佐倉、」 ふと、名前を呼ばれ相手の方へ視線を遣る。 「心配しなくても、俺、負けるつもりなんてねぇから」 きらきらと此方に向けられた笑顔は、 それは眩しいものだった。 |