折琴さんと部活見学

「愛実、テニス部に興味ない?」


おずおずと、春菜に問われたのは数分前。


「…それって女子テニス部よね?」


なんとなく嫌な予感がして、
尋ね返したのは数十秒前。
そして今、


「ええと……男子、テニス部。」


春菜の発言に、私は大きな衝撃を受けたのだった。


氷帝学園の男子テニス部というと、中等部からその優れた容姿と才能から異常な程に騒がれていた部活だ。
付近であるとは言え、女子校であり男子テニス部の存在すらない私たちの学校にその噂が届くのだから侮れない。

それも活躍していた当時のレギュラー陣はほとんどが同学年だという。
噂話にはとことん疎い春菜は恐らく何も知らないのだろうけれど。


とは言え…結局、春菜の頼みを断れるはずもなく、取り敢えず、取り敢えず部活見学させてもらう、という結論に至った。

どうやら春菜の隣の席となった男子生徒(少し妬いたのは仕方ないことよね)とやらがテニス部に入るらしく、
今日の間にすっかり仲良くなってしまったものだからこの度の見学にまて発展したらしい。

春菜が気を許す相手なのだから、良い人物であることは間違いないのだけれど…、心なしか隣を行く春菜の顔は嬉しそうで、顔も知らない相手に嫉妬心は募るばかりだった。


と、目の前にジャージを纏う男子生徒が現れる。


「あ、がっくん。愛実、この人が隣の席の向日岳人くんだよ。」
「待ってたぜ春菜、…っと、そっちは…」
「折琴愛実よ。」
「おう、宜しくなー折琴!」


意外とかわいいじゃない。

無邪気に向けられた笑みに、思わず男子高校生に向けて何とも失礼な事を考えていれば、テニスコートが騒がしくなったことに気づいた。
春菜は不安そうに、向日は何故か納得したような表情でそちらを見遣る。

騒ぎの中心に立つ男子生徒は周囲とは違い制服姿で、集まる視線を気にも留めていない様子で口元に弧を描く。

「流石跡部、やな」
「入学早々…やるねー」

気づけば隣には二人の男子生徒の姿があり。

跡部、と言えば新入生代表の、あの?
ただ偉そうってわけじゃ無いのかもしれないわね。


「春菜、」
「?」
「私、テニス部のマネージャー、やってみようかしら。」


そう言えば、ぽかんと口を開けてはこちらを見て。



はじまり、はじまり
(それは、少女たちとテニス少年たちの物語。)












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