「火神大我くんっ…!」
聞いたことの無いその声に呼び止められ、俺は正直困惑していた。
それなりの距離を走ってやってきたのだろう、息をきらした相手はやはり見知らぬ人物なのだが、当の本人はというと俺の顔を確認するなり安心したように息を吐いた。俺からずいぶん見下げた位置にあるそいつは、印象的な橙色の瞳をしていて。
いやいや待てよ。
「…お前、誰だよ。」
疑問を口にしてみれば思った以上に無愛想な声であり、相手もそんな声を耳にすれば少し身構えたように見えた。
つか、ほんとに誰なんだよ。
「あ、えっと、ごめんなさい。わたし、佐倉春菜といいます。」
佐倉、と名乗る相手は緊張した様子で口を開く。
「わたし、火神くんがバスケ部ブースに居た時に友達と一緒に居て…」
佐倉の話によれば、俺が置いて行った入部届けの名前を目にし、記憶していたらしい。
そう言われてみれば、あの場に2人組の女子が居たような気も…確かにする。
そうして今、一緒に向かう予定だった友人に置いて行かれ、挙句の果てには道がわからなくなった、と。
それってなんつーか…、
「だせぇな。」
「ひ、酷い…。」
思ったままを口にすれば、わかりやすくショックを受ける佐倉。
聞けばこいつはこれからバスケ部のマネージャーになるであろう人物。
断る理由なんてモンも特には無く、勝手にしろとだけ返して背を向ければ、ありがとうと言う佐倉の声が聞こえて。それに特に返事をすることもなく俺とその斜め後ろをついて歩く佐倉は体育館へと向かった。
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