「よーし、全員揃ったなー。」


無事辿り着いた体育館。
到着までにだんだん彼とも打ち解けて…なんて事はなく、まさかまさかの無言のまま目的地へと到着してしまった。

…それはさておき、始めはなんとなく集まっていただけのわたしたちだったのだけれど、先輩の指示によって集まった順番に真っ直ぐ一列に並ぶこととなった。
当然、わたしは火神くんの隣りとなるわけだけれど、バスケ部入部希望者だけあって背の高い男子生徒に挟まれるというなんとも居心地悪い状況が完成してしまい、わたしは気まずいながらも火神くんと場所を変わって貰った。

と、緊張で鎮まっていた一年生からひそひそと話し声が起こりだす。


「なあ、あのマネージャーかわいくねー?」
「2年だろ?…けど確かに!もうちょい色気があれば…」


何ともいいたい放題な彼らの視線の先には――ブースに居たあの先輩の姿。

つられて其方へと視線を遣っていれば、バキキッとあまりよろしくない音がした。


「だアホー、違うよ!」
「ぁいて!」


彼は昨日の眼鏡の先輩…確か、日向先輩だっただろうか。すると、噂の対象である人物がゆっくり歩み寄ってくると、すうっと大きく息を吸い込んだ。


「男子バスケ部“カントク”、相田リコです。ヨロシク!」
『ええっ!?』


はきはきとした声で告げられたのは驚きの事実で、先程より隅へ腰掛けているお爺さんへと視線をやれば、彼女曰く“見てるだけ”の顧問、武田先生なのだとか。

と、相田先輩の視線がふとこちらへ向けられた。


「あら、来てたの!マネージャーはこっちへ並んで、貴女もよ。」
「友加梨!」
「あ、春菜。ちゃんと来れてたんだねえ、よかったよかった!」


わたしと共に移動を命じられたのは友加梨。へらりと笑う彼女に呆れはするものの、曖昧に頷けば相田先輩の隣へと並んだ。


「先に紹介するわね、此処にいるふたりがマネージャーよ。自己紹介、してくれる?」


先輩の言葉に頷けば、友加梨がわたしの一歩前へ出る。


「泉友加梨です!バスケは見るのもするのも大好きで、中学時代もマネージャーをやっていました。今日から皆さんをサポートできると思うと、楽しみで仕方ないです!」


よく通る声でそう言うと、最後によろしくお願いしますと付け加え、元気良く一礼をした。

流石友加梨。沸き起こる拍手のあと、続くようにわたしが前へと出た。


「佐倉春菜です。わたしもマネージャー経験はありますので、学んできたことを生かして、皆さんの事を精一杯サポートさせて頂きます。」


最後に友加梨と同様の言葉で締めくくれば深々と一礼する。拍手が送られると漸く安心して息をつくことができた。

顔を上げれば火神くんが小さく笑ったような気がして、何だか心が温かくなるのを感じた。









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