「っと、ごめんなさい。それじゃあ話の続きをしましょうか。」


火神くんがバスケ部のブースから去り、少しの沈黙の後、先輩が思い出したようにわたし達へ話を振る。その声に気付いた眼鏡の先輩は、苦笑いをしては入部届と書かれた紙をそれぞれ差し出してくれた。


「さっきも言ったけど、部員は今のところ二年生のみ。加えて女手は私1人よ。」
「1人って…それじゃあ昨年は先輩1人でマネージャー業を…?」
「まぁ…実質そうなるわね。」


先輩はそう言ったけれど、二年の先輩のみとは言え何人もの男の人のお世話をするのは簡単ではないはず。それを1年もこなしてきたと言うのだから、彼女のバスケ部に対する熱意は嫌でも理解できた。


「そういうわけだから、マネージャーが2人も入ってくれるのは部としても、私個人としてもとっても助かるわ。」


ね、日向くん!と話を振られた先輩は急な出番に驚いていたけれど、此方に視線を移せば、まあそういうことだ、と優しく笑んで見せた。


「ただし、当たり前だけど頂点目指すつもりで全力でサポートすること。それが了承できるのならこの入部届けを渡すわね。」


火神くんには半強制的に出すことになっちゃったけどね、と先輩。

確かに…あのときは火神くんのペースで話が進んでいたような。
けれど、恵まれた体格にあのオーラ。彼ならわざわざ確認する必要もないことだろうか。

かく言うわたし達も、そんなことはわかりきっているわけで。


「もちろんです、先輩。」
「うちらが先輩を…誠凛高校男子バスケットボール部を、支えていきます!」
「心意気はばっちりね!…うん、それじゃあ記入よろしくね。」
『はいっ』


手渡されたペンを握れば、入学式特有のふわふわとした気分で入部届けに目を通す。

ちらりと隣に目をやれば、友加梨は既に備考欄に差し掛かっているよう。

そこに見慣れた字で綴られた「男子バスケットボール部」の文字に、これから此処がわたし達の居場所になるのだと、気恥ずかしいような、不思議な気持ちがしていた。










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