「だ、大丈夫か?」
「はい、…その、そちらこそ大丈夫ですか?」
「ああ、何とも無いぜ」

ぶつかった程度で何もそんな、というのも突っ込みたい。
でも今私が一番問いたいのは。

「何で顔が赤いのかしら、宍戸?」
「え、お、折琴っお前…!」
「わ、本当…。熱でしたら無理はしない方が…」
「だだ大丈夫だ、気にするな」

駄目だわ、こいつ。
完全に一目惚れ、って奴よねこれは。

まぁ、宍戸と春菜の接点なんて無いに等しいものだし、
この子が彼を好きになったりする心配はないのかもしれない。
だけど私が心配しているのは、彼が春菜の事を好きだという素振りを見せて、
彼のファンにそれが知れてしまった時の事。

残念だけれど、誰もがみんな穏便で危害を加えないとは、限らないものね。

「あ、もうチャイム鳴りそうだし…そろそろ」
「わかったわ、次は私が行くわね?」
「ありがとうっ、それじゃあ…ええと、」
「宍戸亮よ」
「あ、宍戸くんもさようなら。愛実ちゃん、また後でね!」

隣りの教室だけあってゆっくり歩いて帰る後姿に少し安心して、
(走って転びでもしたら大変だものね)
私はくるり、と振り返った。

「折琴…、なぁ、あいつって…」

聞きにくそうに、小さな声で宍戸は尋ねて。
次に私が告げる言葉は、大切な大切なあの子の名前。

「…咲野、な」

さて、どうしたものかしらね。






恋患い
(恋の始まりは、)
(いつも唐突なのね)


…end









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