「はぁ!?朝も居たってどういう…」
「だからさ、見てたんだって。美樹が桜見て、笑ってるところ。」
「忘れろ、今すぐ記憶から消せ。」

人混みが無くなるのを待ちつつ友加梨と話していれば、
引っ越してきた家があたしの家の近くだという。

偶然というか、ここまで来ると必然のような気がしてならない。
…なんて、あたしの勝手な考えなわけではあるが。

と、急に人混みが割れ始める。
ぱっと入り口を見れば、1人の教師が急いで入り口へ向かっているのが見えた。
しかし割れていくのは入り口とは違う方向で、女子生徒の悲鳴とも取れるような声が響く。

…ああ、奴が来た。

「何、何どうしたのさ?」
「あー…まぁ、今に分かるんじゃない?」
「投げやりな答えー…」

考えてみれば彼女は幼稚舎以来の氷帝学園であり、あたしの言う「奴」のことを知らない。

きょとんとしている友加梨に曖昧な答えを返せば、
今度はむっとした表情になりおかしくて笑ってしまった。

「ちょっと、何がおかし…「そこを退け、雌猫共」…え」
「…2人分くらい避けられねぇのかよ、てめぇは」
「あーん?俺様の通る道を空ける…当然の事じゃねーの」

…呆れた。こいつはそれを常識だと思っているのか。

隣では友加梨が相変わらずアホ面で此方を見ているし、
周りではさっきまで煩かった女子生徒共が静まり返り、他の生徒もあたし達に注目していた。

跡部景吾。
金持ちの坊ちゃんであり、強豪であるテニス部部長、
さらには氷帝の生徒会長と本校では1番と言って良いほど有名な生徒である。

追加として1つ、あたしの大嫌いな奴でもある。

「はっ、誰かと思えば紫ノ宮美樹かよ。…と、そっちに居るのは注目の帰国子女か。」

毎度の如く、人を苛立たせる才能があるのではないかと言いたくなる様な口調であたしの名前を言う。
続けて口にした言葉は恐らく友加梨のことであろう。

しかし、帰国子女は事実であるが「注目」とはどういうことであろうか。
他校ならまだしも、この氷帝学園であれば珍しいことではない。

不思議に思っていれば、跡部が全てを悟ったかのように説明を始めた。

「泉友加梨。長期の海外滞在の為か英語の成績は優秀、陸上でも全国女子トップレベルの成績だと聞いている。」

違うか、と確認するように視線を友加梨へとやれば、
彼女もその行為の意味に気づき小さく頷いた。
どうやら、まだ困惑しているようだった。

「跡部様、そろそろ入られた方が宜しいかと…」
「…ああ、そうする。わざわざすまねぇ」

どうやら、様子を伺っていた執事らしきおっさんが何か告げたようで、
跡部は同じように小さく返答をすれば、入り口へ向かって歩いていった。

…なんだ、避けれるんならさっさと通れよ。

「なんか感じ悪ー…」
「あたしもそれは同意だ、これだから金持ちは…」

そこまで言ってはっとする。
友加梨も、所謂金持ちに入るからだ。
慌てた様に隣りを見れば、くすくすと笑われた。

「あは、分かってるから気にしないでー!ああいうすました野郎が気に食わないんでしょ」
「…おう、分かってんじゃん」

当たり前、と笑った友加梨に此方も笑顔で返せば、ゆっくり、入り口へと足を進めた。






普通がいちばん
(何にも起こるなって考えたけど)
(お前がいるんじゃ仕方ないか)



…end









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