しろいひざこぞうをなでる | ナノ




 苛立ちと悲痛さが折り合わさった罵声に近い声で名前を呼ばれた。広い影が出来ている樹木に凭れ掛かり読書に耽っていたコンウェイはぱらり、と頁を捲りながら顔を上げる。と、赤毛の少女が仁王立ちで見下ろしていた。すらりとした体躯を惜しみ無く晒す水着姿の彼女の腰元には似つかわしくない、銃弾入りの革のベルトと太股のラインを隠すような拳銃。
「……どうしたの?」
「あんた日焼け止め持ってたわよね? 貸してくれない?」
「それは構わないけど、わざわざ怒鳴らなくてもいいんじゃないかな」
 不快感を口にした自分への謝罪は無く、さっさと隣に腰を下ろす少女に溜め息を吐きながら傍らのポーチから小瓶を取り出す。差し出そうと彼女に目を向ければ、惜しみ無く晒している生白い肌は所々赤に染まっていた。触れれば、それは熱を籠めており、痛々しさを感じた。
「……これは寧ろ冷やした方がいいと思うけど」
「じゃあ冷やしてよ」
「キミってたまに無茶な要求をするよね」
 膝に乗せていた本を閉じれば傍らに置く。思えば、身体を冷やすだけを目的とするなら近場にある水場を利用すれば良いのではないか。それを口にすれば「あそこの水、結構温いのよ」と唇を尖らせながら少女は語る。随分と我が儘なようだ。
「一回宿に戻ったら?日焼け止め貸すから」
「えー……またあんたのとこに戻って来なきゃいけなくなるの?」
「……分かったよ。ボクも一緒に行けばいいんでしょ」
 そう答えれば満足気に笑う少女に肩を竦める。結局は彼女に折れてしまうのは物事を円滑に進める為、というよりも惚れた弱味が大半を占めているのだろう。本をポーチに押し入れ、其れを手に仕掛けた際にふと自身の手の甲に視線が落ちる。何気無く、手のひらに埋まる水晶を彼女の頬に宛がうと、一瞬何事かと目を見開くもののひんやりと伝わる冷たさに、深い溜め息とともに肩が落ちていくのが分かる。ゆっくりと伏せられる目蓋に、無意識に口元が緩んだ。
「気持ちいい?」
「ん、まあまあ」
 生白い膝小僧に指を這わせ、するりとなぞりながら身を乗り出せば戸惑いに目を泳がす少女の濡れた頬に乾いた唇を静かに押し当てた。 
「熱いね、イリアさん」
「……だから冷やしてんじゃん」
「ふふ、そういう反応も嫌いじゃないよ」
「ほ、ほら! 早く行くわよ!」


 

しろいひざこぞうをなでる
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