真夏の口添え | ナノ






真夏の

「――……氷の槍よ!」
 逃れられない陽射しと熱気による眩みに目を細め、頬を流れる汗を拭いながら声の主に目を向ける。長引く戦いの最中、彼女がその言葉を口にしたのは何度目だったか。恐らく、記憶にあるだけで二桁は越えている筈だが、その精神力は相変わらずと言ったところか。詠唱の合間に橙色の固形物を口に含む青年と比べても、である。
 周辺の魔物を一掃し終えれば、追撃に備え弾の補充を行い、次いで薬品袋を片手に暑さで項垂れる少女の元へと近付く。ぜえぜえと、呼吸の荒い彼女の名を呼ぶ。
「……な、何?」
「先程の戦闘でかなり天術を使っていただろう。もう少しペース配分をだな――」
 言いながら袋からグミを取り出そうとすれば勢いよく顔を上げ、その声を遮るような声量で、検討違いな反抗をされた。
「べ、別に冷気とか出るしちょっと涼しいなって思っていっぱい使ってわけじゃないのよ!」
「……おまえ、そんな理由で……」
「あっ」
 元々暑さで火照っていたのだろう、赤らんでいた頬は更に赤みを増し、反論を試みている様子だが言葉は繋がらず狼狽えるだけ。面倒臭がりな彼女があそこまで戦いに勤しんでいたのにはくだらない理由があったとは――彼女らしいとは思うが。さて、少女の為にと取り出したグミは自らの口の中へと放り込んだのは彼なりの細やかな仕置き。期待通り、彼女は声を荒らげた。
「あー! それあたしにくれるんじゃなかったの!?」
「何の話だ」
「リカルドのケチ! グミを喉に詰まらせちゃえばいいのに!」
「……おい、」
 悪態を突きながら睨み付けてくる少女の腕を軽く引き寄せ、低く唸ってみれば一瞬表情が引き吊るも、負けじと拘束されていない腕でリカルドの服を掴んだ。皺が付くだろう、と文句を垂れながら少女の無防備過ぎる唇に自身のを押し当てる。刹那、物凄い勢いで物理的な抵抗が来るが構わず口の中で遊ばせていた固形物を少女の方へと押し込んで、解放する。
「――……あ、あんた、みんなの前で何を……っ!」
「安心しろ、誰も見てないことは確認している」
「だからって……!」
「グミを寄越せと言ったのはおまえだろう
が」
 ライフルを肩に担ぎながら皆が集まる輪の中へと戻ろうとする男の背中を力強く叩きながら彼より先に戻ってやろうと走り出す。追い越す間際に、罵倒の言葉を添えながら。
「……顔が赤いぞ?」
「あ、暑いからよ!!」



口添え
130725

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