▽75.


海常高校との練習試合の一件後、


かなり体力を消耗したのか火神君だけではなく
黒子君までもが授業中眠ってしまうしまつだった。


そもそも黒子君自身、体力がある方ではなかったけれど
火神君であの調子なら
きっと二年生の先輩達もあの調子かも知れないと
窓に視線を向けて人生二度目の授業を聞く。



学生に戻れたらと思っていたこともあったけれど
いざ戻ってみると内容は案外覚えているもので
勉強自体は苦ではなかった。


そんなことを考えていると先生の怒り声が聞こえて
マズイと思い視線を前に向けると
怒られていたのは寝ていた火神君で
駄目だと分かりながらも笑ってしまう。


すると、ポケットの中の携帯が
小さくヴヴッとゆれ
こっそりと開き見るとリコちゃんからのメール。



「一年全員、お昼休み二年校舎集合場所(ハート)。」



と、簡単簡潔…しかし内容は読み取れない
少し怖い文面である。(主に絵文字のハートが)。



何だがデジャブ。と思いながら
「了解っ!」と返信し
速やかに携帯をポケットに仕舞う。

もう、そのときは火神君は怒られ済みで
先生から解放され携帯を訝しげに見ていたので

おそらくメールに気がついたんだろう。


気になりつつも授業に集中せねばと
前を見据えるも身には入らず

気になればなるほど、
すぐに時間はやってくる。





私は教室で友達のお昼の誘いをやんわり断わり
黒子君と教室をでる。

途中いつのまにか私の後ろに来ていた黒子君に
「何の収集でしょうか?」と話かけられ
死ぬほど驚いたが問題なく二年生の校舎まで着く。



こうゆう普段自分が使わない校舎に来るのは
少しドキドキするものだ。

ゆえに学年違いのカップルなども生まれるのだろう。

わらわらと集まった一年生の向かいに立つように
二年生も集まる。


もちろん先頭はリコちゃんで。

リコちゃんは皆が集まったこと確認すると
満面の笑みで


「…ちょっとパン買ってきて。」

と、また語尾にハートが着きそうな勢いで微笑む。

「は?、パン?」と驚く火神君達の後ろで
なんとなく思い出す。




あぁ、そうだ。そんなこともあったけ。と。


「実は誠凛高校の売店では毎月27日だけ数量限定で
 特別なパンが売られるの。

 それを食べれば恋愛でも部活でも
 必勝を約束される(という噂の)幻のパン。
 イベリコ豚カツサンド三大珍味のせ。2880円!!!」


「どうよ!」と言わんばかりのリコちゃんの
ドヤ顔に苦笑しつつ、
しっかりと火神君が突っ込む。

「高っけいぇ!!
 …し、やりすぎて逆に品がねぇ!!」
 

うろたえる一年生を他所に二年生達は
「俺達が出すから。」と茶封筒を握らせてくれる。

フォローが行き渡り優しいなぁ、と
皆が思ったのもつかの間。

買って来られなかったら練習三倍だからと
怖い笑顔の日向君に睨まれ恐怖に慄く。


誰かが「お昼の買出しクラッチタイム!!」と
囁く声が聞こえなくもない。


「ホラ、早く行かないとなくなっちゃうぞ。」

と、今度は伊月君が優しくフォローしてくれたかと
思うとぶつぶつと呟きハッとし
小さなノートをポケットから取り出すと

 
「パン買うだけ…パン……!!
 パンダの餌はパン「…いってきまーす。」」

なんて彼らしいダジャレが出る前に
一年全員が動き出す。




皆突っ込みの天才なんじゃ…と本当に思う。

火神君といい最近の子は末恐ろしい。
(見た目だけ言えば自分も最近の子だけれど。)


やれやれと思い動き出すと
ぎゅっと手を握られ動きを止められる。

ん?と思い振り返ると水戸部君が
私の手を掴まえていて


その後ろではギャグが受けなかったのが
ショックだったのか伊月君がうなだれている。


「はいはい、伊月君はそこで反省してて。
 ななちゃんはこっちよ。」

とリコちゃんに手招きされる。



いまいち状況がつかめずにいると
困ったように日向君が笑う。


「カントクもななにあんな人が多い戦場には
 いかせねぇよ、流石にな。」


『でも、さっきカントクからは…』

そう、皆が買いに行く時にリコちゃんからは
「いつもより、ちょっと混むだけ。」と
聞いていたはずだった。

すると、リコちゃんが

「ま、少し混むって言ったけど
 あれはもはや地獄絵図よね。」

と掌を返しさわやかに微笑む。

うん、凄く良い笑顔だ。 



「カントクは鬼だかんな。」

なんてぼやく日向君をリコちゃんが一瞥し
皆で来たのは屋上。
のんびり待とうということか。





適当に並んで座ると真剣な声でリコちゃんに
声をかけられる。

「ねぇ。前から気になることがあるの。」

その声色は少し重たくて
少し緊張し無言でリコちゃんを見つめる。







「私ね、アナライザーアイ(読み取る眼)っていう
 少し特殊な目があってね?
 人の身体の疲れだったり傷の具合だったりが分かるのよ。

 …単刀直入に言うわね。
 ななちゃん、凄く身体痛めてるわね?」


真剣なリコちゃんの姿に日向君や伊月君達は
驚きつつも口を挟まない。



それに"痛めている"というリコちゃんの言葉に
胸がツキンと痛む。

痛めた分何か今までで結果は変わっただろうか?

ただただ、空回りした結果が身体に残り
これ以上首を突っ込むな、と
誰かに忠告されているような気がして
私は見てみぬフリをしていた。

上手く隠しているつもりでもあった。



触れられたくなかったのだ。




『…そんなに真剣に聞かれては
 誤魔化しようがないですね。

 ……実は昔大きな事故にあってそれ以来、
 ですかね?』

自分の腕をさすりながら、問題ないよ?
という雰囲気で話すがリコちゃんの顔色は晴れない。



「じゃあ、海常の黄瀬君が誠凛に来たときに言ってた
 ”体調はもう大丈夫なのか?”って質問はこのことなの?」

またしてもリコちゃんに確信をつかれどきりとする。
そんな私の表情に気がついたのか

「事故っていうのは確かに納得できるけど、
 それにしたって傷がかなり蓄積されているのよ。
 そんな一回や二回ではないほどにね?」


優しく私の肩に手を置くリコちゃんは
少し悲しそうにも見えて本当に
心配してくれているのが分かる。





リコちゃんの真剣な表情にこれ以上は
偽れないと思いポツリポツリと話す。

事故にあったことや川に落ちたことなど。

キセキの皆については伏せて話したが

事故によって自分は親がおらず
一人暮らししていることなども話した。


話しきると想像していたより大きな事柄で
皆言葉が出ない状態になっている。

「…なんか、大変だったんだな。」

と、いつも笑顔の小金井君もばつが悪そうに呟く。


「ダアホ!…大変にきまってんだろが。」

「確かに…俺たちには想像もつかないな。」


小金井君の言葉に日向君や伊月君が突っ込む。


水戸部君も言葉は発しないがうんうんと頷いていて
「水戸部までっ!!?」と小金井君達が騒いでいて
リコちゃんが人知れず溜息をはく。


そんな状況に少し笑いがこみ上げてきそうだけど、
きっと笑ったらリコちゃんは怒るのだろう。

『皆さんありがとうございます。
 でも、面倒見てくれていた
 幼馴染の様な存在の人もいたし
 今は慣れてすっかり平気です。

 …でも体力は確かに皆よりないかもしれないから、
 その時は早めに言います。』


だから心配しないでくださいと笑えば
言い合いを止める日向君たち。


「…事情は分かったわ。何かあったら、
 誰でも良い。すぐに言ってね。私たち仲間なんだから。」


そう言ってリコちゃんはやっといつものように笑う。
彼女は本当に面倒見が良い。


「ま、そーゆうこった。」

と日向君たちも笑いほんわかした雰囲気が場を包む。


そこからの話題は今頃イベリコ豚カツサンド三大珍味のせ、
2880円に黒子君たちが苦戦しているのだろうという内容で
皆で笑いあった。


その話どおり黒子君以外はぼろぼろで帰ってきたが
最終的には二年生のおごりでその三大珍味パンは
一年生皆で食べることに。

結局味はとてもおいしくて、また笑いあう。


それは、凄く幸せな時間で

誠凛高校バスケットボール部は本当に仲間想いであること。

そんなことを思わせる一日となった。







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