▽74.






練習試合で負けた。

黒子っち達に負けた。


個人戦で青峰っちに勝てなかったことはいっぱい
あったっスけど
正式な試合で負けたのは始めてで
味わったことのない気持ち。


言い表せないこの感情。



とりあえず涙は止まったものの冷静にならねばと
思い頭を冷しに水場に行き頭から水をかぶる。

(ななっち傷ついたような顔してたな。)

彼女は、いつだって悪くないのに
いつだって彼女が、一番傷ついているような
そんな気がするのだ。


「いつも俺は傷つける側なんっスか…。」

そんなことを考えていると
不意に聞こえた声に顔を上げる。


そこにいたのは帝光時代No.1シューター
緑間真太郎。


「……見に来てたんスね。」



「ふ、…まぁ、どちらが勝っても不快な
 試合だったが。

 猿でも出来るダンクの応酬
 運命に選ばれるはずもない。」


そう言いながら現れた緑間っちは相変わらず
なんだか、異質な雰囲気を放っていて。

いや、キセキの世代は皆異常っスけど。




「帝光以来っスね…つか、ダンクでもなんでも
 イーじゃないっスか入れば。」




「だからお前は駄目なのだよ。
 近くからは入れて当然、シュートはより遠くから
 決めてこそ価値があるものだ。

 "人事を尽くして天命を待つ"という言葉を
 習わなかったか?

 まず、最善の努力

 そこから始めて運命に選ばれる資格を得るのだよ。
 俺は人事を尽くしている。


 そして、おは朝占いのラッキーアイテムは
 必ず身に付けている!!」




いや、俺は毎回思うんスよ?
最後のラッキーアイテムって意味わかんねぇって。

でも、緑間っちはいつになく
この時ばかりはどや顔だし。
変に突っ込めないんスよね…。



「つーか、俺より黒子っちと話さなくていいんスか?」


問いかけた俺の言葉に考える素振りもなく
「ない。」と答える。
ただ、地区予選にあたるだけだからと言っているが
緑間っちは昔っから素直じゃないっスから
本当は会いたいんだろうと思う。


「ななっちも……誠凛にいたっスよ?
 俺には分からないっスけど
 黒子っち達は黒子っち達なりに

 人事を尽くしているんじゃないっス?
 
 …緑間っち風に言えば。」

ぴくりと静に動く緑間っち。

心の何処かでは分かっているのかもしれない。




黒子っちほどじゃないスけど、
人の真似してプレーをするのが俺のスタイルっスから
人間観察は嫌いじゃない。


「…それでも、俺らが誠凛に負けるということは
 絶対にありえない。」

そう言い残すとくるりと踵を返して
遅れてきた自転車…もといリアカーに乗って帰る。


「なんスか…あの、リアカー?」








リアカーに呆気にとられたあと体育館へ戻ると
「今まで負けたことねーとかなめてる!」と
あんなに怒り俺を蹴っていた笠松先輩から

「今日はもう上がっていい。
 そのかわり、次の練習気合い入れてこい!」


と肩をガツンと殴られる。


「痛!痛い!痛いっスよー。」
と言えば「うるせー!」と耳まで赤くする笠松先輩。
気を…使ってくれているんだろう。

全く不器用にも程かあるっての。




「ありがとうございますっス。
 今日は、お言葉に甘えるっス!」

と答えて体育館を後にする。




制服に着替えてもう一度黒子っちに会うために。





























▽▲










ステーキボンバーで死ぬもの狂いで
ステーキを(主に火神君が、)食べて店を出る。

リコちゃんがいつものように
「じゃ、帰ろっか!全員いる?」と聞かれ見渡すと
黒子君がいないじゃないか。

影が薄いからとかではなく本当にいないのだ。


『あれ…?さっきまで店にいたのに。』

最後尾を見渡しても
見当たらず。

本当にどこかにいってしまったようで
メンバーは焦りだすとともに怒りだす。

「逆海老の刑、逆海老の刑…」と呟くリコちゃんを横目に
皆で手分けして探すことになり
火神君と共に探す。


すると、不意に火神君がストリートバスケのコートに
目を向けて
「…お?ストリートか。
 日本じゃ久しぶりに見るな…。て!!黒子!?」
と驚く先を見るとコートの向こう側に黒子君の姿が見えて
『行こう!』と火神君と二人で駆け寄ろうと


思っていたのだが



近づいたときに聞こえたのは黄瀬君の
黄瀬君のはっきりした声で




「黒子っちとアイツ(火神)はいつか決別するっスよ。」


という残酷な言葉だった。

もちろん私だけでなく火神君も驚いていたが
私は驚きだけではなく酷く悲しみにも似た感情が
どっと押し寄せてくる。


今にも吐き出してしまいそうな
この入り交じった感情をぐっと押さえるように
火神君の服の裾をぎゅっと握る。





こちらの気も知らない黄瀬君は
淡々と話を進めていて。

才能が開花しチームから浮いた存在に
火神君は、なるだろう…と。
オンリーワンの才能を秘めているんだと。

言葉にしては言わないが


"今までキセキの世代はそうだったじゃないか。"


そう言われている気がしてならない。





すると、火神君が私の手をゆっくりと取り
にかっと笑う。
そしてそのまま、音を発さずに口パクで
「大丈夫。」と動かす。


私に対してか、自分に対してか
はたまた黒子君に対してかは分からない。


それでも、笑って彼が大丈夫だというのだから信じたい。


私も無言で頷き手を離す。







火神君は何事も無かったよう黒子君のところに行き
バシッと黒子君を叩く。
全く、黒子君は怪我人なのに…と自然と私にも笑みが溢れる。

とりあえず、黄瀬君は私の姿に気がついていない様だし
リコちゃん達に見つけたよメールをうっていると
ガヤガヤと騒がしくなる周り。



なにかと思えばコートに乱入してきた青年五人組が
コートを譲れと酷い手口でバスケをしていて
終いには殴る蹴るの暴行。

酷い…と思って見ていると見慣れた水色が目の前を
掠めていく。
まさかと思いつつも良く見直すと黒子君で
あれを止めようというのか。



「どう見ても卑怯です。
 そんなバスケないと思います。」


真っ直ぐ相手を見据えて臆することなく言う黒子君は
とても素敵だと思うのだけれど
それと同時に無謀とも言わざるえない。


『ちょっと待って黒子君!』と黒子君の腕を
掴めばチャラチャラした青年の一人が、ぐいっと
私の肩を掴む。

そのときにキツい香水の香りが私の鼻をかすめる。



『ちょっ!離してください。』

ここで熱くなっては彼らの思うつぼだと
腹ただしさを抑えキッと睨む。
しかし、青年には効果はないようで
どうしようかと悩んでいると


「暴力もそうですが、ななさんへの扱いも
 気に入りません。何様のつもりなんですか?」


と声を荒らげる訳でもなく静かに怒っている黒子君に
青年達は
「ハハっ!いんだね今どき。いーぜ別に。
 じゃあバスケで勝負してやるよ……て!?」
と、言いかけて顔を青くする。

まぁ、無理もない。


黒子君の後ろには180p越えの男性が二人もいるのだから。




「俺らも混ざっていいっスか?」

と気にする素振りもなく黄瀬君達が現れる。



「つーか、何いきなりかましてんだお前ら。
 …ほら、無理すんな。」
と火神君が、私の腕を青年と反対側に引き寄せると
「そうっス…つか、ななっちもいたんだったら
 先に言ってほしかったっスけど?」と
黄瀬君は火神君に溜め息をこぼす。


「ーっ!仕方ねぇだろ!てめぇが黒子とがちゃがちゃ
 話してたやつの方が気になって、
 言うの忘れてたんだよ!」

と言い返しているが言い訳になっていない。
むしろ、二人を気にしていたことがバレバレで
墓穴をほっている。


「ったく、まぁいいや、
 お前ら!5対3でいーぜ、かかってこいよ。」
と火神君が青年達を煽り始まったバスケは
瞬殺で黒子君達が圧勝。




しかし、火神君は未だに怒っていてる。
全くもって心配性である。


「お前なに考えてんだ!
 あのまま喧嘩とかになってたら

 勝てるつもりだったのかよ!」




「いや…100%ボコボコにされてました。
 見てください。このちからこぶ。」




と言いながら、ぐっと力を込める黒子君。
呆れる私達を他所に黒子君は真っ直ぐに

「それでも、あの人達は酷いと思いました。」

と言い放つ。


何処まで行っても彼の正義は揺るがない。

そうであってほしいと私は願っていたけれど
本当に黒子テツヤという一人の人間が
彼のような人で良かったと…思う瞬間で。



でも、そんなこと火神君には関係ないようで
「先のことを考えろ!」と黒子君を
怒る姿を横目で見ながら考えていると
「オメーも、同罪だ!」と私まで火神君に怒られる。



…巻き込まれただけなのに。









すると、黙って見ていた黄瀬君がくすりと笑い

「じゃあ、俺そろそろ行くっスわ。」
と鞄を持ち上げる。



驚く黒子君達とは裏腹に黄瀬君は優しく笑うと
「最後に黒子っちと一緒にプレー出来たしね。」
とそのまま去っていく。


一瞬悩んだが『ちょっと、ごめん。』と
黒子君と火神君に断りを入れ黄瀬君の後を追いかける。










私の走る音に気がついてか、黄瀬君の
近くに来たところで彼が歩みを止めて振り替える。






「…ーっ!?、ななっち?」


少し驚き気味の黄瀬君。

私は息を整えてゆっくりと顔を上げる。









『負けるのも悪くないでしょう?』










ニッコリ笑って言えば困ったように黄瀬君は眉を寄せ

「そんなことないっス。
 凄く悔しいし、いろんなことに腹立つし
 カッコ悪いし、さんざんっスよ。

 …でも、次は絶対勝ちたいって。リベンジすんだって
 そう思うのは楽しいし悪くないっスかね。」







確かに悔しそうにでもしっかりと笑う彼に
安心して私も笑い返す。

すると、少し目を伏せながら
「その時の質問っスけど…」と言いにくそうに
話し出す。








「今はまだ全部は理解できないけど
 勝つことだけが全てじゃないと今は少し思うっス。

 …でも、だからこそ次は必ず勝つっスから!」


と顔をあげて最後にぶんぶんと手をふる黄瀬君に
『ありがとう。』と呟いて手をふる。



あの時見せた彼の悔しそうな顔は本物であることは私にも
分かる。それが嬉しくて顔が綻んでしまう。




彼はここから変わるのだと、実感して。























そのあと黒子君からメールが入っており
皆と合流することに成功。

したんだけど

黒子君が逆海老の刑になっていたのは
言うまでもない。



















prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -